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3.2 「船舶の Life Cycle Return」

 

3.2.1 はしがき

 

造船を含む多くの基幹産業の製品の価格はその使用形態に応じて市場で決まり、製造者はその価格以内のコストで製造することによって利益を生む、という枠組みのなかで経営活動を行っている。

ここで、市場によって決められた価格から期待する利益を差し引いた額(Cost)で製造を可能とする課題に努力を傾けようとするとき、その製品の製造段階だけで課題を解決することは困難であり、製品の保守、使用上のサービスといった段階に踏み込んで長期にわたる経営活動を通して収益性を考えることが必要となる。このような長期的展望に立った経営展開に変わりつつある産業も少なくない。

こうした観点から造船・海運業の収益性を改善させるために、船舶の建造・運航・保守・解徹・再利用といったライフサイクルにわたって展開されるBusinessの中で収益(Return)に寄与する技術的な課題とその効果を分析して、収益改善の可能性を検討することは今後のbusiness structureの方向性を明確にする上で、また造船・海運に係わる地球環境保全の観点からも重要な課題である。

 

3.2.2 基本認識

 

(1) 船舶市場と造船技術

近年の造船・海運市場はこれまで経験したことのない構造的な不況のなかにある。世界の海上物流に必要な船舶の需要は平均して約2000万総トン/年と言われるのに対して建造供給能力は約3000万総トン/年におよび慢性的な供給過剰が船価の低迷の主な原因とされている。国際的な受注競争に勝つためには、船をより安く造るか、同じコストならより優れた船を造るかのどちらかである。conventionalな大型商船を対象とした場合、経済性に寄与する性能の向上は、従来技術の延長では限界に近いところにあり、近い将来に画期的な技術革新の期待は望めそうにない状況にある。

一方、造船技術者もinitial costの削減に追われて、長期的・広域的な視野に立った技術的conscienceを発揮できない状況にあると言える。船舶市場は世界物流の動向と連動して変化しているにもかかわらず、造船技術者はその場の要求仕様と予算を満足する船の設計、建造に埋没し、運航者も海運市場に合わせコスト節減の努力をしているが、結局乗組員の質の低下を始め、海運の質の低下に繋がっている事は否めない。一般商船の分野においては、比較的短期的、近視眼的に海上輸送手段としての道具作り、使い方に専念してきたきらいがある。

情報技術は社会の仕組みに大きな影響を与えるようになり、物流・運航・造船という経済圏のなかで、最高のコスト効果を発揮するための経済的研究、技術的研究開発といったテーマが情報技術の進展とあいまって発掘されると考えられる。

 

(2) 情報技術

通信、制御、コンピュータに関連した情報技術は今や科学工学や技術の世界から人々の生活様式、社会構造に大きな変革をもたらし加速的に発展している。特にコンピュータ技術では、ハードウェアおよびソフトウェア技術の進化が著しく、ネットワーク技術によりユーザー環境を大きく変えて、高速で大量の情報処理を可能としている。

 

 

 

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