雇用吸収能力が100名規模になった現在、それを期待することはできないし、何よりも企業が長期的に必要とする人材は造船に関する専門知識を持った人材ではなく、応用力のある、社会と時代の要請により変化できる人材であり、基礎力を持ち、自ら考える力をつけた人材と思われる。
学問レベルの教育が必要であれば、現在の仕組みでも大学に依託することが出来る。何らかの特定のテーマの研究を行って貰いたい場合には、依託研究が可能である。
今後の問題として、特定の講座の開設がある。これを大学に開設して貰いたい場合の仕組み、たとえば、寄付講座の設置の仕組み、あるいは民間で共同で教育機関を開設する場合の仕組み作りを行うべきであろう。
技術者に対する技術教育がうまく行かないという話が聞こえている。その原因の一部は大学卒業者の考える力の欠如あるいは基礎学力の欠如があろう。造船の専門知識もあり、それらの力もある人材の供給を大学に望むのは無理があり、大学には考える力のある人材の供給を望むべきであり、それで旨く行かないとすれば、企業側に問題がある。即ち、企業で行うべき技術知識の教育の体系化と熱意の欠如と言わざるを得ない。一企業で不可能な場合には、業界で先に述べた仕組みを作り、実行すべきである。
企業にとって必要な教育は企業自身が行うべきであるという基本に立ち返り、足りない部分は、補足する仕組みを自らの力で構築すべきである。
その他、いわゆる企業人教育がある。企業倫理、技術者に要請される技術者倫理などが益々要請される。倫理は世の中の動きとの関数関係がある。環境問題は以前からあったが、顕在化したのはそう昔の話ではない。これらの教育も又企業の責任であろう。
3.1.4 解決策の提言
前章における問題点の検討を踏まえ以下の提言を行いたい。
(1) 先進的研究プロジェクトに対するフェローシップの活用
国による先進的研究プロジェクトなどの技術開発に伴い若手技術者が育成される効果を見逃すことはできない。このような体制により、若手技術者そのものがレベルアップの機会を得ると共に、このような経験を通じ、その後の技術開発能力の向上も期待できる。このための手段として民間の若手技術者、大学院レベルの学生およびポスドク研究員が国や産業界のプロジェクト研究に長期的に参加することを支援する奨学金支給を含む制度を検討する必要がある。学生にとって先端的プロジェクトへの参加それ自体が自己の研究にとってメリットがあると同時に視野を拡げ、また技術者としての規律を身に付ける良い教育訓練の機会となる。
また、大学教育と社会(産業界、行政、政治)との関係をより広い視野のもとで緊密化し、学生の社会に対する問題意識を育むためには、将来を担う学生や若手研究者の立法、行政などの場での技術政策提言を目指した研修制度も設けるべきあると考えられる。
(2) 社会人の継続教育
実務的社会人研修は、一義的には産業界の中での社員教育の問題ではあるものの、今後の我が国の造船業の変革の中で、社会システムとしての職業訓練制度に対する考慮も必要となってこよう。例えば造船業(船舶建造、船舶修理)に従事していた技術者、技能者が、造船業そのものの業務の多様化、社会の職業流動化などの要因により、海洋関係分野等の他の分野の技術、技能を習得することが必要となる場合や、他の分野からの技術者、技能者が、広い意味での造船業を核とした業務に従事する場合など、社会的な要請に応じて、国が実務的社会人研修機能に対する制度的援助(船舶技術研究所、大学等での基礎訓練制度の構築、訓練費用への直接補助、訓練費用に関する税制上の優遇措置など)を検討する場合も生ずる。