個々の製造物は、それらの基礎力の適用法を考える上でのひとつのサンプルと考えるべきである。極論すれば、自ら船舶の抵抗の推定法を案出出来るレベルまで、基礎学力と考える力とを付けさせるべきである。
社会人が知識の整理のため、あるいはより高度の学識を得るために大学教育を受けたいと考え、一方、大学人側には実務でいかなることが行われているかについての知識の吸収の欲求もあるのではないかと思われる。
現在でも、企業からの研究生、学部あるいは大学院学生の受け入れの体制、および企業から講師を招き実務的養育を行う体制は整ってはいるが、大学は社会人の教育を担うべきか否かについての議論は必ずしも深くはなされていない。大学の現実の姿は、いわゆる新卒者を送り出しているのであり、社会に対しての未経験者をその主な対象にしている。教育者も研究者であり、問題の把握、問題へのアプローチの仕方、学問の継承あるいは研究をその主な目的としている。大学が基礎力とその応用力、考える力をつけさせる場であるとするなら、また、社会もまたそれを望んでいるなら、企業あるいは企業人は、必要と考える、より産業に密接した特定の講座の開設と大学人と企業の実務に精通した人との、相互の知識あるいは経験を生かした講座の充実を大学人とともに考えるべきである。
これらの講座は、大学に設置するだけではなく、国あるいは民間のいずれかに設立することも考えられる。
(3-2) 産業界から国への期待
既に入社している人間に対しての、企業あるいは企業人の必要と考える教育は本来企業自身が考える問題であり、大学人と企業の実務に精通した人との、相互の知識あるいは経験の修得はこの両者が考えるべき問題であろうが、それらをスムーズに行かせる仕組み、場の提供あるいは補助は国に期待されるテーマである。
実務教育は座学ではなく、実際に研究、開発、設計あるいは建造に携わさせることが有効であることは言うまでもない。いわゆる先端的技術、開発的技術については、民間団体は、国家予算あるいは日本財団などからの補助金を得て、その研究、開発、製造に当たる場合もある。これらは教育ではなく、研究あるいは開発と捉えられているが、それらに携わる人間は自ら考え、調べ、あるいは他者を教育しながら進めている。これらのいわゆる先端技術の開発の、教育的観点あるいは産業界に対する教育的資金援助という観点からの考察があっても良いのではないかと考える。
今後、大学の卒業者の知識、能力の不均一性、途中採用の増加、場合により、外国人技術者の採用なども考えられる。この場合の、個人の能力の判定基準の策定が必要になると思われる。即ち、船舶設計技術士、船舶建造技術士などの資格制度の策定である。運航については、国家がそれらの資格を準備しているが、造船に関しては企業任せであった。実務的には、それらの判定結果だけでは評価しえないと思われるが、なんらかの基準作りが必要な時代に入ったと考えられる。この資格試験は国家、あるいは民間任意団体で行うべきものと考えられる。
(3-3) 産業界の役割
基本的にある産業、または、ある企業に必要な人材は自分自身で探し、足りない部分は自らが教育し、あるいは教育の仕組みを構築すべきと考える。
産業の必要とする人材教育を外部が行うかどうかは、その産業の雇用吸収能力の関数である。たとえば、パソコンに通じた人材の養成は当然のこととして外部で行われている。造船も専門知識を持った人材の雇用能力が年間500人規模有れば、造船に特化した教育を世間に期待する事は可能であるし、従来はそれに近かった。