(2-3) 実務的社会人研修機能の検討
実務的社会人研修は、一義的には産業界の中での社員教育の問題ではあるものの、今後の我が国の造船業の変革の中で、社会システムとしての職業訓練制度に対する考慮も必要となってこよう。仮に、これまでの造船業(船舶建造、船舶修理)に従事していた技術者、技能者が、造船業そのものの業務の多様化、社会の職業流動化などの要因により、海洋関係分野等の他の分野の技術、技能を習得することが必要となる場合や、他の分野からの技術者、技能者が、広い意味での造船業を核とした業務に従事する場合など、社会的な要請に応じて、国が実務的社会人研修機能に対する制度的援助(船舶技術研究所、大学等での基礎訓練制度の構築、訓練費用への直接補助、訓練費用に関する税制上の優遇措置など)を検討する場合も生ずる。
また、実務的社会人研修機能に付随して、資格認定制度の必要性も議論の対象となる。
(2-4) 大学との連携
我が国の産業構造の変化、世界的な情報化の流れなどの社会的な変革に対して、適応できる基礎能力を持った技術者をいかに育てるかは、いままで以上に日本の発展にとって重要となってくると思われるが、これは大学の教育システムを考えるだけでなく、社会(産業界、行政、政治)におけるトレーニングの問題も含めた総合的な制度として捉える必要がある。
これまで日本が直面してきた環境問題を例にあげると、個々の技術的な対応ができても、問題を社会システムとしてとらえ、その中で技術を用いていく対応の仕方が欠けており、複雑化する問題には対応ができにくい面があった。これからの日本の社会では、非常に専門的な分野の能力を持った人材は従来どおり必要であるが、自然科学と社会科学の両方においてバランスのとれた能力を持つ人材も必要となってくると思われる。
さらに、大学での教育と社会(産業界、行政、政治)との関係については、学生時代における接点が薄く、学生の問題意識が十分に育たないままに社会に出ていくという問題がある(これからの日本の政治に有能な人材を養成すべきだとの考えについては、社会の側にさえまったく問題意識がないのが現状である)。
このような課題に対し、米国では制度上、National Sea Grantなどの制度を設け、大学の研究者(大学院生など)が社会で有効な研修ができるよう相当の工夫がなされているようである。
我が国においても、将来を担う若手研究者の立法、行政などの場での研修制度を設けるべきあると考えられる。
(3) 大学と国への期待と産業界の役割
(3-1) 産業界から見た大学教育の在り方
従来の企業には大学には基礎的学力の養成を期待し、実際の業務に役に立つ人材は企業内で養成する仕組みがあった。現在でも基本的にはその状況は変わっていないと思われるが、企業を取り巻く環境が即戦力を期待するようになってきた。即ち、企業は完成された人材の養成を大学に期待するようになって来ている。しかしながら、修士課程修了者といえども、完成された人材を大学の新卒者に期待することは教育期間的に無理がある。社会は工学系の基礎的素養を持った人材を望んでいるが、毎年精々100名程度の需要しかない産業に対して、そのための学科を存続させておけということには無理がある。もしもそうであるなら、造船系学科を統合し、基礎学力を身につけさせた上での実務に通じた人材養成機関を大学に設置せよと言うに等しい。むしろ、企業が大学に期待すべき人材は、応用力のある、社会と時代の要請により変化できる人材であり、そのような人材は基礎力を持ち、自ら考える力をつけた人材と思われる。