●技術者教育における体系的生涯教育システムの不備
広い教養と社会性、技術者倫理の確立、技術者資格制度への対応
●10年後の熟練技術者の急減と21世紀の少子化による若年技術者の減少
●外国人技術者雇用制度の不備
などが挙げられよう。
3.1.3 問題点の検討
前述の問題点を踏まえ、大学、国、産業界の立場から問題点と解決策を検討した。
(1) 大学における造船教育体制の再構築
(1-1) 情報化時代における簡明な知識表現法の確立
現代の知識は、しばしば断片的デジタル情報の膨大な集積物と化し、体系的知識として後世へ伝えることを困難にする潜在的危険があるように思われる。設計情報や有限要素法・CFDによるシミュレーション計算結果などを想起すれば、このことは容易に理解されよう。人類は近代になって無限集合の間の関係を関数という概念を用いy=f(x)と簡明に記述する手段を持ったが、デジタル時代の今、膨大なデータの塊を前に、われわれは簡明な知識記述の術を見失なってしまったように見える。この情報の爆発を抑え、いかに取扱の容易な体系化された知識表現を獲得するかは、情報化時代の大学教育全体に与えられた重い課題である。
断片的デジタル情報から知的概念を抽出し、知識体系化の指針を与える役割が現代の大学に求められている。即ち、現在暗中模索中の「デジタル時代の思考法」とでもいうべきものの確立である。このような作業の成果から将来自ずと大学に課せられた使命である自律的知識人たる技術者の養成をいかに行うべきかという解答もでてくるし、また革新的設計につながる新概念の創出も期待できるようになるのであろう。さらに、大学教育に際して伝達すべき情報量が、適正規模に抑えられ、またこれによって生み出される時間的余裕が、広い教養と社会性のある人材養成へとつながることを期待したい。
(1-2) 知識の体系化
基礎教育は一定レベルの徹底的な数学・力学系の「古典教育」が、いわゆる「情報教育」と同等かそれ以上に必要であるし、また学部・大学院レベルの専門教育では流体、構造、設計などそれぞれの分野で船舶海洋工学固有の学問体系を明確化するとともにその「デジタル時代の思考法」を呈示する必要がある。後者については今後の大学組織の再編なども考慮し、大学間協力、あるいは学会の活動として日本全体で分野別の(電子)教科書編纂のプロジェクトを起こすことなども考えられる。
創造性を育むには体系化された教育とともに学生自身に十分考えさせる機会を与える必要がある。「思考」はアカデミックな「対話」から生まれるといわれるが、これは現在の教育体制では学部の卒業研究および大学院で主に行われ、学部入学時からの数年間はブランクである。オックスフォード大学のチュータ制度などに見るように入学時からの個人指導の仕組が理想であるが、人的資源をいかに確保するかが最大の問題点である。また、学生間の自然な「対話」を生み出す場を演習や実習を通じてどのように設定するか、教育の場としての大学の意義が問われている。