以上の知見及び、Lloyd's事故データベースの統計等を参照した結果、衝突船船首が船倉内に貫入するような重大衝突事故遭遇確率は、128万年に1回程度であると推定された。この遭遇確率は、原子力船「むつ」や「SAVANNAH」の建造当時に推定されたこれら原子力船の場合の重大衝突事故遭遇確率を下回るものと判断された。
解析結果から得られた知見を基にして、ミノルスキー法準拠の問題点を改善し、「耐衝突構造」基準に簡易解析法を適用することを想定した新評価法を立案した。新評価法では、想定衝突船としてT-2タンカーの代わりに最大級のVLCCを採用し、船速は15ノットと仮定した。破壊により吸収されるべきエネルギーの大きさはミノルスキー法に倣い、衝突船及び被衝突船の破壊進展は簡易解析法により推算することにした。衝突船のバルバスバウ形状として、扁平型と尖鋭型(バルバスバウの高さが扁平型の0.5倍)の2種類の場合を考慮することにした。尖鋭型船首形状については、より厳しい衝突条件を与えるものとして採り上げた。この2種類のVLCCが試解析対象船である照射済核燃料等運搬船に衝突する場合について新評価法を適用した結果によれば以下の通りであった。
(A) 扁平型船首の場合には、衝突船の船首貫入量は外板から2150mm(縦通隔壁までの距離の0.64倍)。
(B) 尖鋭型船首の場合には、衝突船の船首貫入量は外板から2750mm(縦通隔壁までの距離の0.82倍)。
尖鋭型の場合には、被衝突船船側の崩壊進展が大き目に評価される。尖鋭型船首は、実存する構造を参照したものではないこと、衝突位置が相手船の船底近くにくること等から、モデル化および解析法の適用に問題があることを付記する。
貫入深さをどのように規定するかを判断するためには、現行基準との整合や安全性の面からの再検討を要するので、今後の課題とする。(A)、(B)の試解析結果が参考になるであろう。