4.6 考察
詳細衝突解析を実施し、衝突船がSuezmax級(載貨重量で約15万トン)或いはVLCC(載貨重量で約28万トン)級の肥大船であっても、解析対象として選択した代表的な照射済核燃料等運搬船の船体構造には致命的な破壊は生じず、船倉の保護が維持されるとの結果が得られた。また、コンテナー積載数で6200TEU級の超大型コンテナー船(衝突時に吸収すべきエネルギー量の観点からは、現在就航中の船舶の99.5%をカバーする非常に厳しい“痩せ型高速”の衝突船候補に相当)が「最大速力」で「真横」から「運搬船の船体中央部近傍」に衝突する様な極めて希なシナリオに於いては、船倉に浸水する(船倉の保護が成立しない)可能性がある事が判った。ただし、運搬船の「船倉保護」を必要条件としても、運搬船の重大被衝突事故遭遇確率は十分に低く実質的に許容可能なレベル内に維持されているものと判断される。また、船倉に浸水しても運搬容器の健全性を損なうような事態には至らないと言える。一方、衝突回避操船などにより衝突角度がやや斜めとなるだけで船倉に浸水する可能性がなくなる(船倉の保護が成立する)事、及び超大型コンテナー船の速度が殆どの衝突事故が集中する輻輳海域内の実用上の上限速度(12ノット)であれば、同じく船倉への浸水は無くなる(船倉の保護が成立する)事も判った。また、吸収したエネルギー量と運搬船のSway及びYaw運動特性から判断すると、全速力で真横90度から衝突するという最悪の組み合せであっても衝突位置が船体中央部から外れれば、同様に船倉への浸水は無くなくなる(船倉の保護が成立する)ものとも予想される。
以上の詳細解析は、有限の衝突条件の下で特定の船舶同士の衝突を対象として実施されたものである。従って、耐衝突防護を完全に保証する証左にはなり得ないが、代表的な照射済核燃料等運搬船の耐衝突防護性能レベルを概ね判定可能な情報が得られたと判断される。即ち、「海査第520号:照射済核燃料等運搬船構造及び設備に関する特別基準」を満足していれば、海査第520号で想定されたT-2タンカーよりも遙かに大型で高速且つより強固な船首構造を持つ潜在的衝突船に対しても、殆どの場合に衝突防護が成立する可能性が高い事が確認された。なお3.2の検討結果によれば、船倉の保護が成立しなくなる可能性のある「ごく限られた衝突条件」での重大被衝突事故発生確率は極めて少なく、約128万年に一度以下と推定されている。