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6. おわりに

 

高レベル放射性廃棄物を収納したTN28VT型輸送物が海上輸送中に機関室火災や海面火災に遭遇した場合の健全性に関して、輸送物の環境条件を求め、その結果に基づき、輸送物の健全性について評価した結果、以下のことが明らかになった。

(1) INF船が機関室火災に遭遇する場合には、機関室内に存在する火源となる油の量が海面火災に比較すると非常に少ないことに加えて、機関室と船倉部間の船体横隔壁の遮蔽タンクの断熱効果により、輸送物各部の温度上昇量は小さく、輸送物の健全性が十分な裕度で確保される。

(2) INF3船がタンカーに衝突して海面火災に遭遇しても、その火災が現象論的に想定される規模、即ち、将来の超大型タンカーから油が連続的に流出し、800℃の火災が1.8時間持続する場合に対しては仮りに漲水装置が作動しなくても、輸送容器の密封境界の温度は一般の安全解析書に記載されているガスケットの短期使用上限温度178℃を下回るため、輸送物の健全性は維持できることが明らかになった。

(3) INF3船がタンカーに衝突して海面火災に遭遇した場合の海面火災の条件を、超大型タンカーに対して現象論的ではなく、仮想的に想定した海面火災条件、火災温度800℃、火災持続時間30時間として輸送物の安全裕度を評価した結果、漲水装置が作動すれば輸送物の健全性は確保されるが、漲水装置が作動しない場合には、船倉ハッチカバー部のフェノリックレジンの断熱性能にも拘わらず、輸送容器の密封境界の温度が243℃になるため、ガスケットの短期使用上限温度178℃を越えることが想定される。しかし、2日間の高温状態に対する密封機能が維持できる上限温度が302℃であるという結果が、近年実施されたガスケットの短期耐熱性試験結果から報じられており、密封境界の温度はこの温度を上回ることはないので、仮に密封性能が劣化しても環境への放射性物質の放出は回避できることが明らかになった。

(4) 一般船の海難統計データや安全設備の不作動確率等の基礎データに基づき、海面火災発生時についてGO-FLOWイベント・シーケンス解析システムに基づく確率論的評価を行い、輸送容器の密封境界の温度が一般の安全解析書に記載されているガスケットの短期使用上限温度178℃を上回った場合に照射済燃料輸送物が損傷するという仮定の下に密封機能の損傷確率を評価した結果、3.53x10-7/隻・年と十分に低いことが明らかになった。

INF3船は、訓練された乗組員が従事していること、自動衝突予防援助装置が設置されていること、実際の航路選定上事故多発区域を回避していることを勘案すると衝突事故発生確率は更に低くなり、一般船に比べて安全設備のサーベランス・テストの頻度が高いことを考慮すると、船倉冷却装置、船倉漲水装置の不作動確率は更に低くなることが想定され、輸送物の健全性の損傷発生確率は更に低くなる。又、短期間(2日間)のガスケットの使用上限温度を調べる試験から、302℃まで密封性に重大な損傷を与えないことが判明しており、火災温度800℃の火災が30時間持続した場合でも、ガスケットの温度はこの温度を超えないことが判明したので、仮想的な海面火災条件を想定しても、中性子遮蔽材の劣化は考えられるが、輸送物から環境への放射性物質の漏洩は生じないと評価された。以上の結果から、海上輸送の安全性は十分に高いと考える。

 

 

 

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