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3.3 機関室火災時の輸送物の熱影響評価

3.2で検討を行った機関室火災に伴う船倉への熱的影響解析結果に基づき、船倉に積載された輸送物の熱解析を行った。機関室火災における直近貨物倉への熱的影響の解析結果より、1,000℃火災の2時間後の船倉中央温度(上段)78.9℃に比べ、530℃火災の15時間後の船倉中央温度(上段)は151.3℃と後者の方が明らかに厳しい。また、下段に比べ上段の方が厳しくなっている。従って、機関室火災における輸送物の熱的解析は530℃火災の上段におけるものを対象として行った。

解析コードは輸送物の熱解析に一般的に用いられているTRUMPコード[17]を用い、2次元軸対称モデルにより輸送物全体の温度評価を行った。輸送物周囲の環境温度は機関室火災の熱解析結果に基づき、船倉中央部温度と船倉壁(機関室側)温度の平均値を用いた。これは輸送物の周囲温度として安全側の仮定と考えられる。船倉壁からの輻射入熱については船倉壁(機関室側)の温度に基づき輸送物への入熱量を評価した。但し、計算モデルはR-Z体系であるので輸送物全周から入熱することになる。実際には船倉壁(機関室側)に面する側面からのみの入熱であるので、胴部の輻射伝熱面積(形態係数)を1/2とした。輸送物の蓋側は上部緩衝体があることから、計算モデルは蓋側を断熱境界とし、上部緩衝体自体はモデルに含まれない。従って、蓋部からの輻射入熱は考慮されず、軸方向は底部のみからの輻射入熱を考慮した。

機関室火災時の輸送物胴中央部、レジン及びガスケット部の温度履歴を図7に示す。同図より、ガスケットは初期定常状態で118℃であるが、10時間後に144℃、15時間後に168℃となる。TN28VT型輸送物はガスケットとして合成ゴムを用いている。この合成ゴムに関し、安全解析書に記載されている連続使用範囲は150℃、短期間(〜1週間)の使用範囲は178℃である。

 

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図7 機関室火災時の輸送物胴中央部、レジン及びガスケット部の温度履歴

15時間後の温度は1週間の使用可能温度を十分下回っており、密封境界は健全であることが分かる。レジン部(中性子遮蔽材)温度は当初の134℃/109℃(内面/外面)から、10時間後に178℃/184℃、15時間後に208℃/226℃となる。レジンの連続使用温度は155℃以下であり、解析結果はこの温度を上回るが、レジンは外筒に囲まれており急速な劣化は考えられない。胴部外面温度は、当初の101℃より、10時間後に186℃、15時間後に231℃となる。胴部は鋼製であり、この温度で材料の強度はほとんど劣化せず、また胴部の内外面の温度差は30K程度以下であり、胴部に異常な熱応力が発生することもない。

以上の結果から、機関室火災時における輸送物の密封は健全であり、若干の中性子遮蔽材の劣化はおこる可能性があるが、輸送物の健全性は維持されることが判明した。尚、TN28VT型輸送物の安全解析では、火災時に中性子遮蔽材はすべて消失するとして評価し、所定の遮蔽機能を有することが確認されている。言い替えれば、過去の実例あるいは技術的に想定し得る最大規模の機関室火災が発生したとしても、海査第520号の構造・設備要件と危険物船舶運送及び貯蔵規則(危規則)に定められた居住区などの線量当量率基準を満足するINF3船であれば、機関室火災に対する輸送物の安全性は十分に確保できる。

 

 

 

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