3. 機関室火災時の輸送物の健全性評価
3.1 機関室火災時の船倉内への熱影響評価
機関室火災に対する全体の解析フローを図3に示す。機関室火災の解析は同図に示すように、まず火災規模等の解析条件を設定した後、火災発生後の機関室内の貨物倉側の隔壁の温度変化を求める試みを行った。しかし、機関室固有の配置等の条件より一般的な温度履歴を得ることは困難であることが判明したので、安全側の仮定として機関室内の壁面温度は火災の持続期間中は機関室内の火災温度で一定と仮定し、直近貨物倉側への熱源とした。
本解析では、ABAQUSコード[16]を用いた。船倉内の初期雰囲気温度を38℃、輸送物の初期表面温度を85℃と仮定した。想定したINF3船では、第5船倉に4基又は6基のキャスクを積載できるが、輸送物は、配置関係から機関室に最も近い上下各段の各1基をモデル化した。そして、船倉の冷却装置の能力は必要除熱量の1.5倍、1船倉当たりの漲水能力は全船倉合計として140m3/hとした。また、注水される初期海水温度は32℃とし、機関室内のサービスタンクの容量は50m3と想定した。機関室と第5船倉との間の壁には遮蔽水タンクが設置されている。本質的には、この遮蔽水の顕熱と潜熱による熱吸収を考慮する必要があるが、安全側の仮定として、初期状態において既に100℃の蒸気がこのタンクを満たしていると想定した。
3.2 直近貨物倉への熱影響解析
機関室火災が直近貨物倉へ及ぼす熱的影響を解析するための機関室と直近貨物倉間の配置のモデルを図4に示す。これら簡略化したモデルの他にユニットクーラーが配置され、船倉壁面に断熱材が施されたりしているが、安全側に評価するためこれらを省略した。
直近貨物倉に対する熱解析は前述の機関室火災のシナリオに基づき、機関室における火災温度1,000℃、火災持続時間2時間のケースと、530℃、15時間のケースの2種類について解析した。それらの解析結果を図5と図6に示す。船倉内の温度条件はキャスク表面に最も近い各節点においては、1,000℃、2時間のケースでは輸送物の直近の雰囲気温度は約115℃であり、530℃、15時間のケースでは約165℃であった。この温度をキャスク外筒直近の雰囲気温度として捉えれば、輸送物の特別試験条件800℃に比べて雰囲気温度は大幅に低いことが分かる。