5. 洪水流モデルを用いた打込み荷重等の推定法の検討
5.1 はじめに
海水打ち込みの観点からみた乾舷の評価手法を確立する目的で、strip法等によって計算できる船首相対水位、縦揺れ角及び船首上下速度を用いて、甲板水位、甲板荷重及び甲板水圧を実用的に推定する手法を開発した。推定法は、甲板水位等を既知として甲板荷重及び甲板水圧を推定する部分と、船首相対水位等を既知として甲板水位を推定する部分に分かれるので、それぞれ別個に説明する。
5.2 甲板荷重の推定法
船体運動及び甲板水位を既知として甲板荷重及び水圧を

と表す。ここで、ρは水の密度、hは甲板上打ち込み水位、Wは甲板の鉛直方向速度、gは重力加速度、θは縦揺れ角である。この式は甲板水のもつ運動量変化による動的な成分も含めて推定するもので、第1項は水位の変動に伴う運動量変化、第2項は慣性力を表わす。また、衝撃成分は(5.1)式の第1項に起因するため、ピーク値にはこの項が影響すると考えられる。
検証のために、本部会で行った模型実験で計測したデータを用いて甲板水量と甲板荷重の関係を調べた。図5.1にタンカー模型(Lpp=4.0m)の甲板荷重の計測値と(5.1)式のhに甲板水量mの計測値を用いて推定した甲板荷重の時系列を比較したものを示す。図中には、全体の甲板荷重の計算値と各成分を一緒に示している。縦軸の甲板荷重は実船スケールに換算した値を甲板面積で割った値(平均水圧)を表す。これによると、甲板水量から推定した甲板荷重は計測値とよく一致しており、甲板水の運動量変化を含めた(5.1)式で甲板荷重を推定できることがわかる。また、(5.1)式の各成分を比較すると、定量的には(5.1)式の第2項、すなわち甲板水の静的な荷重が最も大きい割合を占める。しかし、立ち上がりからピークにかけては、第1項が大きな影響を及ぼしており、甲板水の自重だけでは、荷重のピーク値を過小に評価することになる。このことからピーク値の推定には、水位変化に伴う運動量変化が重要であることがわかる。
5.3 甲板水位の推定法
前節の結果から、甲板荷重や甲板水圧を推定するためには、甲板水位hの時間変化を精度よく推定する必要があると考えられる。しかし、甲板水の挙動は複雑であり、厳密な形で表現することは容易でない。