4. 水槽実験による船体応答計算法の妥当性の検討
4.1 はじめに
満載喫水線の規定と関連する船の安全要素の一つである海水打ち込みについては、その制限に関して規則上明確な規定がなく、また、それに関する安全レベルを評価する指標も定まっていない。そこで、乾舷の規定に関係するような有意な海水打ち込みを正しく把握するためのデータを取得し、その評価指標について考察を加えるとともにその指標をストリップ法等の既存の船体運動推定ツールに基づいて推定するために、内航船の模型船を使用して海水打ち込みに関する水槽実験を行った。実験は、内航船の代表的な船型である749GT型タンカーと699GT型貨物船を対象に、平成8年度及び9年度に実施した。この実験では、波傾斜及び船速をパラメターとして船体運動、相対水位変動、甲板荷重、甲板水圧、甲板上水位分布を計測した。詳細については年度報告書に記載されているのでそちらを参照していただくこととし、これらの実験結果のうち満載喫水線に関する要件を海水打ち込みの制限の観点から評価する手法を検討する際に重要になると考えられる事項を実験結果の一例とともにまとめたので以下に示す。
4.2 船体運動
内航タンカーのような船体中央部の乾舷が非常に低く、波が頻繁に甲板上に乗り上げてくる船型の船体運動についても、VLCCや外航のコンテナ船のような大型船の運動推定で実績のあるStrip法で実用上十分な精度で推定できることを確認した。結果の一例を図4.1及び図4.2に示す。
4.3 相対水位変動
図4.3及び図4.4に示すようにStrip法の推定結果は全般的に実験結果とよい一致を見せる。また、船首楼甲板への海水打ち込みの有無については、Swell-Up成分を考慮することで、船首部相対水位とBow heightの大小関係から精度よく推定することができることを確認した。しかし、相対水位が乾舷を越えた量と打ち込み水量や打ち込みによる甲板荷重との間に強い関連があること(第6章図6.1及び6.2参照)を考慮すると、Strip 法による正面向波状態の船首部相対水位の推定値は実験値に比べて過大評価をしているといえる。このような傾向は過去に行われた他の船型についての実験においても見うけられる(RR7平成4年度報告書(研究資料No.198R)図3.1.7)、海水打ち込みが発生しやすくなる大波高中で顕著になる。これは、図4.5に示すように波高による船体応答の非線形牲等によるものと考えられる。満載喫水線に関する要件を海水打ち込みの制限から評価する際に、現行基準との相対的な比較を行うのであれば特に問題はないが、推定値を用いて絶対的な評価を行うのであればこれらの影響に注意を払う必要があると考えられる。