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3. まとめ

本年度は過去5年間のとりまとめとブラッシュアップを行ってきた。成果の概要は以下のようである。

 

3.1 おもな成果

(1)確率論的安全手法について

手法そのものについては、乗揚、浸水、火災事故について検討し、ロイド事故データなどを中心に分析し、事故シナリオを想定、事象進展の分岐確率の設定、構造簡易計算による損傷確率やシミュレーションによる損傷船体の時間変化推定、人間の避難特性の仮想現実感システムによる設定とシミュレーション計算を組み合わせて、人命の損失確率を求める手法を開発した。国際航海に従事する第一種船を関して、SOLAS74と90で安全上有意な差のあることを数値的に示した。一方、利用できるデータには詳細なシーケンスの記述も、また船舶の母数に関する情報もなく、従来事故からの分岐確率を求めることはきわめて困難であることが分かった。基本となる船体の衝突、乗揚事故、客室や貨物室の火災については、試計算とは別途詳細に分析を行っている。

(2)MSESについて

上記(1)の計算に際して、船舶技術研究所で船体データから各種計算を行うための統合システムMSESを実装し、当初予定した機能を備えることができた。これは、船舶データ入力モジュール、安全評価モジュールを中心として、リスクの評価を行い、これにコストベネフィット、リスク抑制方策を盛り込んでその効果をリスク値の低減で評価するものである。FSAの5ステップの実施を意識して、その具体的な検討を行えるものとしている。本システムは、データを入れさえすればよい、というものでなく、シナオリ作成、すなわち、ハザードの同定など多くの専門的判断を要するもので、この点がもっとも問題である。そのため、最終年度においてはきわめて広範にひろがる事象進展の分岐を専門家判断によりしぼる方法について検討した。

(3)FSAとIMOについて

本部会をIMOでのFSAに関する議論の国内での検討の場とした。FSAに関してPSA的観点から言うと、対象もきわめて広範でデータもない状況の中で、PSA的手法のみでFSAを構成するのはきわめて困難である。FSAの実施に当たっては、専門家判断を合理的に取り入れるなど大胆な方法を採らざるを得ない。

IMOにおいては、本研究での確率論的安全評価手法に関する成果をMSCに、貨物室火災の分析についてはFPにインフォーメーションペーパーとして提出し、委員が出席して報告を行った。また、本年度はIMO MSCに出席し議論に参加するほか、運輸省主催のFSAセミナーに本研究での成果を報告した。

 

以上、きわめて困難な道筋をたどったが、多くのデータやシミュレーションにより確率論的安全評価手法の概要を設定する事ができた。

 

 

 

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