日本財団 図書館


3.2 今後の船舶の安全評価に関する提言

客観的な安全評価、あるいは安全基準設定は今後の重要課題である。本研究を通して多くの知見が得られたが、今後さらにこれを発展させ、またFSAとしてIMOの場で議論を進めるには以下のような問題があげられ、これらに対して検討、準備をしていくことが必要と思われる。

(1)データとシミュレーション手法の整備

PSAを行うには事故データなどの数値的根拠が必要である。ロイドの事故データ、海難審判採決録、NKやIMOの事故報告その他、多くのデータを参照したが、いずれも統一的なフォーマットもなく、精粗にも差があり、きわめて利用しにくい状況である。まず、これらデータの所在を明確にし、さらに可能であれば電子的整備を行う必要がある。しかしデータそのものを整備したにしても、十分なデータを取っておくことは困難であり新形式船等には適用できない。データのみでなく本研究で構造損傷の見積もりや火災の進展を求めるために行ったシミュレーションなどの手法を確立しておく必要がある。

(2)generic shipと事故シナリオの設定

安全基準の策定は、個船評価と異なりgeneric shipとそれに関するハザードの抽出とシナリオの設定と評価による。きわめて多岐に分かれるシナリオすべてを取り扱うわけにいかないし、また同じgeneric ship、同じシナリオであっても、たとえば退船命令発令のタイミングの違いで、人命損失確率は大きく変動する。これを認識して最適なgeneric shipとシナリオを、専門家判断か、あるいは合理的な手法により設定することが必要で、今後の安全評価手法のもっとも重要な検討課題である。

(3)他領域での安全評価手法の検討

本研究でも、原子力や航空機、建築物の安全評価手法の検討を行い、それを参考に研究を進めた。ほかの分野でもさらに発展しており、それらを検討対象としておくことが必要である。とくに、IMOでも行われているヒューマンファクターに関する検討は乗客の避難特性以外は本研究では取り入れることができなかったが、航海機器、当直体制などに関する安全評価では是非必要である。

(4)FSAへの発展

FSAはその動向は未だに確たるものがないように見える。しかし、客観的な安全基準設定のためにはその趣旨を生かすことが必要であろう。何らかの形で専門家判断を取り入れることになる。その際に、大きな範囲の設問を専門家に対して行うのでなく、本研究で行ったような詳細に検討された災害進展シナリオの分岐確率のような論理的に詰めていって最小の粒度の設問を行うべきである。PSAはきわめて詳細なシナリオ設定を行うが、それを行った上で専門家判断により重要シナリオや分岐確率の設定を行うことが肝要である。PSA的な基本構造の詳細な設定に対してFSA的専門家判断を取り入れることで、FSAが実現されるように考えるられる。FSAに含まれるRIDなどについては本研究では具体的に取り上げておらずIMOでの議論に今後も積極的に参画し、FSA全体像の構築に寄与することが必要である。

 

以上の所見については、RR49の場でも議論され、それを十分に含み込んだ形で今後の研究計画が展開されている。RR42での成果を敷衍して、客観的明示的な安全基準の設定手法を構築する努力が必要である。

 

 

 

前ページ   目次へ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION