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(5)座礁海難の場合

結論だけを述べると、座礁によって船底に生じた破口によって転覆・沈没する可能性はないと言える。なぜならば、この試計算対象船舶は高い位置にある区画が大きな浮力を持っているため、これが失われない限り大傾斜角における復原力が保たれるからである。

(6)まとめ

ここでとりあげた試計算対象船舶の場合、喫水線上2.3〜4.7mにわたるD甲板の区画に浸水することが転覆の必要条件であり、また想定した最大破口幅が限定されていた。そのため、破口の下端が必ず喫水線上にあり、浸水が始まるために大きな外乱(風速)が必要なことから転覆確率が小さくなった。前に述べた破口幅の分布は統計データにsmoothingを施した場合であって、少数ながらこれを越える破口も報告されているため、その評価がより正確になれば、あるいはD甲板がもう少し低ければ、転覆確率はかなり大きくなったものと推定される。

この他の課題としては波浪影響の評価がある。波浪中では水面上の破口からも浸水する可能性があり、転覆確率は大きくなると考えられる。しかし、時間の要素も含めてこれを評価するためには遭遇波浪の推定、浸水した船舶の運動計算、船体の存在による波浪の変形等を正確に推定することが必要になる。また、浸水した後を考えても防水性が何ら規定されていない各種仕切壁やドアの評価を行う必要があり、人的要素として水密ドアの開閉状況も想定しておく必要がある。安全基準を評価するというFormal Safety Assessmentの目的に照らした場合、どの程度の精密化(それに伴う複雑化)が必要とされるのかについて、多くの議論がなされ明確な指針が定められることが望まれる。

 

2.2.6 火災災害におけるイベントの解析および災害進展シナリオの削減方法

(1)概要

火災災害の場合、火源の位置、消火・防火措置を反映した発熱率曲線等を用いて煙流動シミュレーションを行うことにより、火災災害進展シナリオ、すなわち、船内各所の煙濃度の時間変化が得られる。しかし、乗員による消火・防火措置の成功・失敗等により災害進展シナリオは大きく変化するため、それらの乗員のオペレーションのシーケンスを求めることが必要である。これを周知の手順によるETAで行う場合、イベントシーケンスが膨大になるため、何らかの方法でその数を削減する必要がある。また、煙流動シミュレーションの実施のためには、乗員のオペレーションの時間設定が必要である。

第I期では、火災進展を段階的に考慮したETA,FTA解析を実施し、大胆な仮定を置いて災害進展シーケンスを少数のグループにまとめ、それらのグループから代表イベントシーケンスを選んで煙流動シミュレーションを実施した。第II期では、イベントを直接火災進展に影響を及ぼすオペレーションに限定するとともに、イベントが成功する時間の確率密度関数を、専門家への意見聴取によって求めることにより、乗員のオペレーションの時間設定を可能とし、かつ煙流動シミュレーションの回数を少数に押さえる方法を考案して煙流動シミュレーションを行うイベントシーケンスを求めた。

(2)第I期の方法

(a) 火災災害解析対象区域の導入

火災の進展に合わせて、考慮すべき範囲を段階的に広げていくことによりイベントシーケンスを削減することにした。こうした範囲を解析対象区域と呼び、表2.2.6.1のように設定した。

 

 

 

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