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救命設備の使用限界とされる20度まで船が傾斜する時間を避難可能時間と定義し、これに対する破口長の影響と風速の影響を、それぞれ図2.2.5.2、図2.2.5.3に示す。ただし、傾斜角の経時変化では一度20度を越えた後にまた20度未満まで戻るものがしばしば見られた。このような場合には、避難不可能な状態は一時的なものなので、避難可能時間は無限大として取り扱っている。これらの図から、破口長が小さくなるにつれて避難可能時間が急激に長くなること、同時に両基準適合船の差が大きくなること、また20度以上傾斜しないと限界風速が両船でかなり差があることなどがわかる。

(4)衝突によって転覆する確率と避難可能時間

破口長や風速などのパラメータの確率分布をもとに、衝突によって転覆する確率と避難可能時間の期待値について検討した。破口が生じる位置は船側全体について一様の確率と過程してよい。また、船長方向の長さ、および深さ方向の幅の確率分布は、2.2.4節の方法に従った。

風速については世界の主要航路上に位置すると思われる8点を選び出し、GEOSAT衛星の観測値9)から超過確率を整理し、同様に次の3段階に分けた形で以下の計算に用いた(表2.2.5.1)。

以上を組み合わせた合計27通りについて計算を行った。そのポイントのみを表2.2.4.1に示す。ここで、各ランクを代表する値にはそれぞれの中央値を用いている。この表から、SOLAS'74適合船の場合でも、転覆する(避難可能時間が計算できる)のはわずか3ケースしかなく、トータルな転覆確率は0.16×10−4(10万回の衝突海難で1.6回転覆)に過ぎないことがわかる。またSOLAS'90適合船は、風圧による傾斜では破口まで海水が達しないため、転覆確率はゼロとなった。

 

表2.2.5.1 転覆する確率と避難可能時間

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