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2.2.5 浸水災害時の船舶状態の経時変化解析

(1)衝突・座礁海難の実態

在田8)は、第2次大戦中に魚雷攻撃を受けた船が沈没するまでの時間の分析結果を紹介している。それより、1000GT未満のほとんどの船舶が10分以内に沈没すること、大型船ほど残存時間が長いことがわかる。またこの他に、海上保安庁が保管する昭和55年2月までの海難調査票のうち、全損船舶の遭難時間を海難の種類別にまとめたものが引用され、衝突では15分以内に60〜70%、乗揚げでは40分以内に50〜60%の船舶が全損状態になることが示されている。さらに、最近の海難審判庁採決録に「間もなく沈没」という表現が多くみられる。以上より、浸水災害では避難可能時間がかなり短いものと考えられる。したがって、人命損失数を推定するために、浸水〜沈没に至る船舶の姿勢変化等を精度良く推定する手法が必要であり、これを実施するためのシミュレーションプログラムを開発した。

 

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図2.2.5.1 浸水単位区画および破口

 

(2)シミュレーション計算上の仮定

シミュレーション計算を行う上での主な仮定は以下のとおり。

1)船に作用する外力としては、定常風による傾斜偶力だけを考慮する。

2)重量付加法によって滞留水の影響を考慮し、静的な釣合計算を基本とする。ただし、GMが負になる瞬間には次の平衡点まで瞬時に傾斜するという不自然な結果になるので、その場合に限り慣性力および減衰力を作用させる。

3)破口は長方形で表現する。破口は事故発生時に一瞬にして生じ、その後拡大しないものとする。

4)海水の流入速度は内外の静圧力の差からベルヌーイの定理で計算する。また、空気の流出速度は高速なため断熱膨張過程を考慮する。

(3)経時変化解析の例

試計算対象船舶(表2.2.1.1)の浸水単位区画(水密性が保たれる区画)の配置を図2.2.5.1に示す。GMは0.612mと0.912mの2とおりとしたが、それぞれ新旧SOLAS(1974年と1990年発効)に適合する状態である。

以下に、図2.2.5.1に示す4区画にまたがる破口が生じた場合の解析例を示す。破口を表す長方形の長さ(船長方向)のみを変化させ、その中心は横隔壁に一致するものとした。破口の上端はD甲板床面上0.5m(喫水線上2.8m)、下端はE甲板床面(喫水線下0.05m)とした。また、対称浸水なので外乱として風による傾斜モーメントを作用させることとした。風速は船舶復原性規則等で近海以上を航行する船舶に要求される26m/sを用い、この風を真横から受けた場合に相当する292ton−mの傾斜モーメントを最大とした。

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図2.2.5.2 避難可能時間に対する破口長の影響(風速26m/s)

 

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図2.2.5.3 避難可能時間に対する風速の影響(破口長0.5m)

 

 

 

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