しかしながら、詳しい対象物件の選択や規制限度値について合意に達せず、また、火災荷重の制限と容積制限及び発熱量制限との関係(すべて課すか、選択肢とするか)についても議論がまとまらなかった。そこで、最大火災荷重の制限は可燃性物質の最大発熱量制限及び合計容積制限の代替要件とすべきとの提案をし、大筋の合意が得られた。最大火災荷重の制限はまだ使用実績がほとんどないため(米国では導入されている)、可燃性物質の最大発熱量制限及び合計容積制限の同等要件として第17規則に従って評価すべきこと、最大火災荷重の制限のための指針は当面は勧告として取扱うことで合意した。また、Maximum fire loadの規定については、future designの指針として有益であるとの意見もあった。従って、最大火災荷重の制限に関する規定は、Reg.5から削除し、MSC/Circ案として用意した。
(3) 非常用呼吸具
非常時の緊急用の呼吸具(使用可能時間10分程度の空気源と呼吸用マスクあるいは透明袋)は、船舶の機関区域及び旅客船の居住区域に備え付けることが合意。なお、非常用呼吸具の技術基準は、MSC/Circ.849として回章されている。これは指針であるので、強制力のあるFSSコードには入れなかった。
(4) 機関区域の局所消火装置
旅客フェリー「エストニア」の海難に対応したMSCにおける議論の中で、機関区域の火災を初期に消火するために、火災危険性の高い場所に局所的に自動消火装置を設置するSOLAS改正案が提出された。この改正案は旅客フェリーの安全性向上のSOLAS条約改正には含まれなかったが、FPにて新II-2章に盛り込まれた。なお、機関室の局所消火装置の記述基準は、MSC/Circ.913として回章されている。
(5) 機能要件と同等性評価
SOLASの火災安全の基本及び機能要件と、同等火災安全措置の評価方法の新規則(Part F Regulation 17)については、別途述べる。
(6) 煙の制御
陸上の建築物では、火災の際に発生する煙を建築物の外へ排出する装置(自然換気力を利用した排煙口あるいは機械式排煙装置)は、ある種の建築物(公共性のあるもの)には設備が義務付けられている。しかしながら、現II-2章には船舶に対してそのような規定はないため、新II-2章に火災時の煙の制御について規定する方向で検討が進められた。
(社)日本造船研究協会では、過去にRR732において実大規模の船舶居住区模型による煙流動及び制御の実験を実施し、その成果をFPへ提出してきた。
しかしながら本要件は、各国でまだ検討が進んでおらず、またまだ船舶用としては実績がないため、さらに検討の余地があるとされ、今回のSOLAS新II-2章案には盛り込まず、引き続きFPにて検討を継続することとなった。従って、FPの議題として残すべくMSCへ要請することとなった。
3.3 同等火災安全措置の評価方法案の考え方
表3.1に示したように、SOLAS新II-2章案では、防火の基本要素に対応する具体的な防火要件は、Part B、C、D、E及びGの各規則及びFSSコードに示される。そこで、これらのPartの規則あるいはFSSコードに規定されている具体的な設備要件と同等の安全性能を実現し得る他の設備あるいは設計を用いようとする場合に、その安全性の同等性を評価するため、Part Fの17規則を用意している。