19条2項(l)については、これを拡張して解釈すると、沿岸国の法令に違反する行為(例えば航行安全規則上ブイの右を通るべきところ左を通るような些細な違反の場合)はすべてここの含まれうることになってしまい、条約の起草目的を欠くこととなるということから、この規定に該当する場合は、あくまで19条2項(a)〜(k)に掲げれらたものと同等な外部から認知可能で比較的重要な沿岸国法益の侵害にあたるものに限られるというのが妥当なところであるが、海洋法条約の起草過程では「その他の行為」のまえに「類似の」(similar)という語を挿入しようとする提案が否決されているので、解釈拡張の余地が残されている。林久茂『海洋法研究』(日本評論社、1995年)、45頁。フランスの上記のデクレがこうした解釈拡張を狙ったものであるのかどうかは不明であるが、ケネディクは、これを有害性の認定において「行為の目的をより強調するためである」( J. P. Queneudec, ”La reglementation du passage des navires etrangers dans les eaux territoriales francaises,” 31 AFDI(1985), p. 788)としており 、列挙が ”notamment”(including)として掲げられていることと合わせて解釈すると、沿岸国としてのフランスが有害通航と判断する余地は広げられているとみるべきであろう。
(11) たとえば有害廃棄物越境移動バーゼル条約は、その第6条で、有害廃棄物の積出国に対して、その廃棄物移動の過程でその沿岸を通過する国に対して通報し事前の許可を得ることを義務づけている。この義務は領海のみならず排他的経済水域にも適用されるものと思われる。ただしバーゼル条約は同時に、条約が国際法によって認められる船舶の通航権および通航の自由を行使する船舶の航行に影響を与えないと規定しており(4条(12))、積出国が条約規定の手続を経ていない場合でも、沿岸国が船舶の通航を拒否することはできないという趣旨にも読める。有害廃棄物越境移動に関する他の条約、たとえばバマコ条約(1991)、中米地域条約(1992)、南太平洋地域条約(1995)もバーゼル条約に倣った規定を設けている。バルセロナ条約のイズミール議定書(Protocol on the Prevention of Pollution of the Mediterranean Sea by Tranboundary Movements of Hazardous Wastes and Their Disposal, Izmir, 1996)は、地中海地域における有害廃棄物越境移動に関して、単に事前通報を規定するに止まっている(UN. Doc., UNEP(OCA)/MED/IG9/4, 11, October, 1996.)。