わが国のプルトニウム輸送船の通航に関して、これを有害通航とみなして入域を拒否できるかが問題となった。その際、国際環境法において実定化されつつあるいわゆる「予防原則」(precautionary principle)を前提としつつ、特別に高度の危険性を内在する有害物質を積載運搬する船舶が、領海入域すること自体のなかに19条2項(h)の「故意」を読み込んで、「故意かつ重大な汚染行為」(いわば予防原則違反としての汚染行為)として有害性を認定することにより、入域そのものを否認できるという結論を導こうとする議論も展開されている(Van Dyke, Sea Shipment of Japanese Plutonium under International Law, 24 Ocean Development and International Law(1993), pp. 399-430, esp. p. 408, Van Dyke, Applying the Precautionary Principle to Ocean Shipments of Radioactive Materials, 27 Ocean Development and International Law(1996), pp. 379-397, esp. 384.)。海洋法条約は危険有害物質運搬船舶について国際協定が定める文書の携行と、それら国際協定が定める特別の予防措置(special precautionary measures)をとる義務を規定しているが、プルトニウム輸送の場合にはこうした条件は満たされていた(K. Nakatani, International Legal Aspects of the Maritime Transportation of Recovered Plutonium from France to Japan(paper presented to the Nuclear Inter Jura 93))ことに加え、むしろ核物質防護条約において実効的な核物質防護のための国際協力措置に従って輸送中の核物質について防護措置をとることが要請されており(3条)、内水あるいは海港を経由して領域通過の場合についても防護水準が保証されない核物質の通過を認めない義務(4条3項)を負うから、少なくとも防護水準が充たされている限りで、沿岸国はその通過を防護する義務すら負っている。