しかしそうした実施上の判断を可能にするためには、その前提として、どのような場合にどの限度において無害通航中の外国船舶に沿岸国が介入する権限をもつか、あるいはどのような場合にどの限度で外国船舶の入域を拒否する権限を持ちうるかを、解釈論として確かめておくことが必要であろう。あるいは漁業についても汚染についても特別条約を通じて沿岸国の利益が強化されるなかで(27)、伝統的な権限を越える沿岸国の権限を解釈論的に導き出すことがどこまで可能であるか、特に船舶起因の海洋汚染についていえば、沿岸国利益の強化は航行利益を相対的に弱化させるが、しかしそのバランスの変化はそれほど大きいものではなく、従って解釈論的な沿岸国権限の拡張もその限度を常に考慮して解釈を確定しておく必要がある。
本稿ではこうした観点から、第2部3節の規定と第12部の規定との関連を意図的に強調した。とくに第27条の規定のある特殊な解釈を前提にして議論をした。しかしその意図は、第27条を拡張して解釈すれば汚染に関して沿岸国が領海通航中の外国船舶に対してもとりうる措置を膨らませることができるということを示すことにあったわけではない。むしろ第12部の規定が濫用の危険に対する手続的な規制をどのように用意しながら、沿岸国による執行の制度を創設しているか、その際、なお沿岸国として沿岸海域の汚染防止の目的を達するために必要な措置権限としてどのような問題が残されているかを考察することにあった。沿岸国の権限の拡張をただ論じたいのであれば、おそらく第27条の規定が、 その起草の経緯はともかく、「刑事裁判権を行使してはならない」という場合の禁止が”shall not”ではなく”should not”になっていることを指摘すれば十分であるのかも知れない(28)。あるいはまた「刑事裁判権」や「犯罪」の語が使われているからといって、それが当然に刑法犯を意味し行政法令違反は含まないといえるわけでもない(29)。
ぞれぞれの国によって法制は異なり、従って国際法上の解釈論としては、主要な法体系のなかでもっとも広く沿岸国の執行措置を許容する国を一つの規準としつつ、その枠内でわが国法制上の無理のない可能性を探ればよい。27条との関係では、この規定は、これまでわが国の解釈においては非常に限定的に解釈されてきているが、これがそのように解釈される以上に沿岸国に広範な権限をあたえる規定であるかもしれないことを一度疑ってみることは価値あることであろう。