第三に、外国船舶が任意に自国の港または沖合の係留施設にとどまる場合には、汚染防止のための沿岸国法令の違反が自国の領海、排他的経済水域で行われた場合には手続を開始することができるが、寄港国による執行(218条)が自国の内水、領海、排他的経済水域の外側で生じた排出違反に関してのみ認められるのに対して、沿岸国による執行の場合には、排出のみならずその他の汚染防止のための沿岸国法令違反が対象となる。沿岸国が入港中の船舶に対して管轄権をなぜ行使できるかといえば、入港中の船舶については船舶航行利益との調整は第12部7節の保障措置のみ足りるという判断があるものと思われる。しかし排出に関しては公海上での排出についても寄港国として手続を開始することが認められているところからみて、この判断だけでは止まらない要素がある。つまり領海については沿岸国の立法管轄が及んでいるとしても、そうでない公海における排出についてなぜ寄港国が手続を開始できるかという問題が残る。
実際上の観点からいえば、実際の排出場所が領海であるか公海であるかを特定できない場合でも、入港後の船舶書類の検査によって排出違反の嫌疑が証拠によって明らかになる場合もありうるわけで、こうした場合に、排出違反を沿岸国法令によって処罰できるためには、排出違反行為が入港によって完成するというような擬制を用い、一種の継続犯として構成する必要が生じることになる。こうした擬制が可能であるかどうかは別として、国家の管轄権の及ぶ海域内で違反が生じたのでなければ寄港国による手続は進められないから、公海上における排出行為について寄港国による執行を可能とするためには、たとえば油記録簿から算出される残量の減少について合理的な説明ができない場合には、寄港国の領域内で汚染行為が行われたものとみなすという考え方も提起されている(24)。
なお220条1項の場合でも、汚染を回避するための船舶の堪航性に関する措置に関する規定(219条)とほぼ同様の保障措置が適用される(226条1項(c))から、沿岸国は堪航性に関する国際基準に違反する船舶について、その違反により不当に海洋環境に損害をもたらすおそれが確認されれば、その船舶を航行させないようにするための行政上の措置をとることができる。