219条と226条の違いは、前者では「実行可能な限り」(as far as practicable)とされつつも、寄港国を義務づけるものとして規定されているのに対して、後者は調査のために船舶の抑留、 担保金による早期釈放という手続を前提として、なお釈放を拒否する沿岸国の権限を定めるものとして規定されている点にある。しかも後者は、船舶の構造的欠陥による堪航性だけでなく、およそ「海洋汚染に対する不当な損害のおそれ」(unreasonable threat of damage to marine environment)がある場合に釈放拒否(あるいは修繕を条件とする出港)ができることとなっている。いずれにせよこれらの規定は、第2部では規定されていない新しい義務あるいは権能ということができよう。
第四に、領海通航中の船舶が領海において沿岸国法令違反を行った場合には、一定の場合に沿岸国は船舶の抑留を含む手続を開始することができるが(220条2項)、この違反も排出基準違反に限らず、また具体的な汚染損害またはその危険を要件としていないから、第2部に定める沿岸国の権限を越える広い内容をもっており、汚染防止法令に関してのみ認められる新たな沿岸国の権限である。
(b) 航行利益保護のための保障措置
後者の航行利益保護の仕組みについては、次のような点を指摘することができる。第一に、領海通航中の船舶が領海通航中に汚染防止に関する沿岸国法令違反を行った場合に、沿岸国がその違反について物理的検査を実施できるのは、「違反したと信じる明白な理由」がある場合に限られ、また自国の法令に基づいて船舶の抑留を含む手続を開始できるのは、「証拠により正当化される」ときに限られていることである(220条2項)。この場合の沿岸国法令は排出に限られるものではないが、第2部3節では、内水を出て通航中の外国船舶の場合を除き、刑罰を科するための手続を執行できるのは、法令違反の結果として損害が沿岸におよぶ場合あるいは領海秩序を害する性質のものである場合に限られるから(27条1項)、実際には排出違反の場合に限られることになる。これに対して、220条2項は、たとえば沿岸国の汚染防止を目的とする航行規則への違反など、少なくとも外見上から違反を確認できることについては適用可能である。