日本財団 図書館


(a) 執行措置の範囲

前者の執行措置の範囲については、以下のような問題を指摘することができる。第一は、第2部3節では、これまで見たように、領海通過のために領海を通航(transit passage, lateral passage)する外国船舶と内水出入りのために通航する船舶という二つのカテゴリーが明確に区別されているが、第12部の規定は単に通航中の外国船舶について一般的に規定するのみで、この区別には触れていない。ただし領海通航中の外国船舶が領海通航中に行った沿岸国汚染関連法令違反については、「第2部3節の関連する規定の適用を妨げることなく」と規定されており(220条2項)、内水から出て通航する船舶については、第2部3節27条2項の規定に委ねたものと解釈する余地がある。この点は寄港国による執行および沿岸国による執行の規定のなかで、220条1項、2項の規定だけが排出のみでなく汚染関係沿岸国法令違反について手続の開始を認めていることとの関係で、実際上、重要な意味をもつであろう。すなわち外国船舶が任意に港に留まる場合は別として、外国船舶が領海通航中の場合、排出違反あるいは航路違反など外部から客観的に確認でき「違反したと信じる明白な理由がある」「証拠により正当化される」などの所定の要件を充たして海上において措置をとれる場合はともかく、それ以外の沿岸国法令違反(たとえば海洋汚染に関連する構造・設計・設備・配乗基準違反)は外部からは知り得ないから、一般には沿岸国は220条2項の要件を充たした上で船舶を抑留して手続を開始することは、実際上、ほとんど不可能となる。それら違反についての手続は船舶を抑留し、港に強制的に留め置いた上で調査を実施した後に初めて可能となる。第2部、第12部いずれにしても単に領海通過のために通航している外国船舶による排出違反・航路違反以外の汚染関連沿岸国法令への違反については、実際上、220条2項を適用することは困難であろうが、もし第2部3節(とくに27条2項)が適用可能であるとすれば、少なくとも内水から出て領海通航中の外国船舶については、領海上において刑事裁判権を行使することが可能となるから、これと220条2項を併せ読むことによって、船舶の抑留を含む手続を開始できることになる可能性がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION