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しかし実際にはこの立証は容易ではない。有害性は単に主張すればよいものではなく、客観的に決定できる性質のものとされてきたからである(5)。また船舶が堪航性を欠く構造欠陥船舶の疑いがある場合でも、構造に欠陥があるというだけでは、それが船舶の構造に関する一般的に認められた国際的規則または基準を実施する沿岸国法令への違反とはなっても、直ちに通航そのものを有害とするわけではない。そしてこれらの場合に通航の無害性が保持される限りで、一般には沿岸国は外国船舶の通航に介入したりあるいは通航を拒否する権限をもたない。そうであれば、同様に沿岸国はそれら船舶が領海に入域することも拒否できないこととなる。

ところで海洋法条約は船舶起因汚染に関しては、旗国主義を前提としつつも(6)、海洋汚染防止に関する沿岸国法令の実効を確保するため、領海および排他的経済水域における汚染行為に関して一定の範囲で沿岸国(あるいは寄港国)による執行を認めた。とくに排他的経済水域制度の導入は、漁業資源保存と同時に海洋環境保護のために従来の旗国主義を修正することにあったといえる。すなわち海洋環境保護についてもっとも敏感なのは遠く離れた旗国ではなく、汚染行為がなされた海域の沿岸国であり、また排他的経済水域での汚染行為は直接に天然資源に対する沿岸国の主権的権利に関係するから、沿岸国の方が実際上、有効に取締りを行うことを期待でき、結果として資源保存と海洋環境保護という国際社会の共通利益をよりよく実現することができるという考慮である。 もちろんそれは沿岸国の利益にも合致しこれを強化するものであるが、海洋法条約の規定ではなお不充分あるいは不明確なままに残されている問題も多い。 そこで本稿では、 こうした沿岸国利益の強化が、海洋汚染防止の必要上、沿岸国が領海あるいは排他的経済水域においてとりうる措置の範囲を第12部の明文で規定されていない事項にまで拡大して解釈することが可能であるかどうか、とくに汚染を発生させる危険を有する船舶の領海への入域拒否、あるいは無害性を保持している船舶に対する領海からの退去要請、あるいは領海通航船舶に対する沿岸国法令違反に関する刑事裁判権の行使などを可能とするものであるかどうかという問題関心にしたがい、海洋法条約の諸規定、とくに第2部3節と第12部との関係を整理して考察することにしたい。

 

 

 

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