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また、斎野教授は、保護法益への影響(法益への実質的侵害)が国内にあるか否かが国内犯と国外犯とを分かつ基準であるとされ、例えば、偽造された通貨・有価証券等が転々して日本国内においても通用・流通・行使される危険性があるところに刑法2条の実質的意義があるが、修正結果説からは、2条の規定を待たずに国内犯として処罰できるとされる(41)。しかし、2条を1条の国内犯処罰規定の単なる確認的な規定とみるのは、明文なき国外犯処罰を否定する現行法の趣旨に反するといえる。2条の存在は、まさに現行法が修正結果説を採用するものではないことの証左といえよう。さらに、この見解の最大の問題点は、「保護法益への影響」という基準自体が曖昧で、その認定について、なお各国の主観的判断の働く余地があり、国外行為と内国領域に生ずる効果との間に密接な関連がないのに法益侵害ないし危殆化が肯定される恐れを排除できない点にある。国家的法益・社会的法益に関わる犯罪の場合、どこで行われても日本の法益が侵害(危殆化)されると解する余地を否定できないからである。したがって、このような解釈を「属地主義」の名のもとに行うことには根本的な疑問がある。

この点、辰井説は、通貨偽造罪や公文書偽造罪等の犯罪の「構成要件的結果が外国で生じた場合、そのことによって発生する日本国内の法益に対する危険の程度は、国内で生じた場合と比べて非常に小さい」ので、「国内で構成要件的結果が実現した場合でなければ、その犯罪の処罰を基礎づける国内における法益侵害の危険の発生は認められない」と主張される(42)。このように、辰井説は、国外で実行された抽象的危険犯の国内犯処罰については限定的であるが、問題は、抽象的危険犯において、果たして、国内で構成要件的結果が実現した場合でなければその犯罪の処罰を基礎づける抽象的危険が国内において発生したとは認められないといえるかである。例えば、東京で流通させる目的で日本銀行券が韓国で偽造された場合と沖縄で偽造された場合とで流通・行使の危険性に実質的に見てそれほど差があるとは思われない。

 

 

 

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