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辰井説の特徴は、第一に、結果説の根拠を、法益侵害を伴わない行為の処罰を否定する結果無価値論の立場から、国家による刑罰権の行使は、国家に被害が発生したことによって、すなわち国家の利害に関係する事態であることが明らかになったことによってはじめて正当化される点に求めていること(34)、第二に、結果説における結果の内容を、構成要件的結果ではなく、法益侵害(及びその危殆化)に求めていること(35)、第三に、そのような意味での結果が刑法の場所的適用範囲内で発生することの認識(故意)が必要であること(36)等にあるといえる。

さらに、斎野彦弥教授は、カルテルの問題を通じてアメリカの判例理論における効果主義の立場に示唆を受けながら、当該行為によって国内犯の保護法益に対して実質的な影響が及ぶ場合には国内犯として処罰すべきことを主張される(37)。この見解は、従来の結果説に抽象的危険説犯と具体的危険犯の場合の危殆化される法益の場所を追加しており、自らの立場を修正結果説と称されている。

これらの実質的結果説は、いずれも違法性の本質に関する結果無価値論の立場から結果説を基礎づけようとした点で共通の問題意識を持つものであるが、結果説に立つ限り、国内で構成要件に該当する行為を行ったが法益侵害が外国で生じたときは、国外犯の処罰規定がない限り処罰できないという結論を承認せざるを得ないことになる。この点が、結果説の最大の問題点である。

そこで、町野教授は、結果説を一部修正して、国内で行われた行為の結果が国外で発生した場合、国外犯の処罰に正当な理由があれば国内犯として処罰できるとされたのであった。この見解に対しては、結果説とは名ばかりで、結果概念の操作によって行為地をも巧妙に犯罪地に取り込んだ「隠れ遍在主義」に過ぎないという批判や(38)、同じ国内犯でありながら、行為も結果も国内で発生した場合と、結果が国外で発生した場合とで処罰の要件に差を設けることは、国内犯と国外犯の区別を明確に行っている現行刑法の解釈論として妥当でないという批判がされている(39)。しかし、この見解の最大の問題点は、結果説によれば本来、国外犯として処理すべき事案を、国家自己保護あるいは国際協力主義を根拠に実質的に国内犯化するものであり、刑法2条以下で国外犯処罰の規定を置き、明文なき国外犯処罰を否定する現行法の立場と正面から衝突するものであって解釈論の限界を超えるという点にあると思われる(40)

 

 

 

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