(2) 結果説の展開とその問題点
遍在説が明文で採用されている諸国とは異なり、我が国では犯罪地の決定基準について必ずしも遍在説に拘束される必然性はない。そこで、遍在説のかかえる問題点を克服するために、最近、遍在説を批判し新たに結果説を主張する論者が登場し注目を集めている。
まず、町野教授は、「刑法は法益保護を目的とするものであり、法益侵害(危殆)の結果が犯罪の実質である(結果無価値論)」から結果の発生した場所のみを犯罪地とする結果説が基本的に正しいとした上で、「もっとも、国家自己保護あるいは国際協力主義が妥当とし、国外犯の処罰に正当な理由がある場合には、結果が国外で発生した場合においても、国内で行われた行為に日本の刑法を適用して処罰することも認められるべきである」と主張されている(32)。
次に、辰井聡子氏は、「遍在説が、もっぱら実務上の都合の良さによって支持されているものであり、何らかの原則に基づくもの」ではなく、ただ、「行為も結果も構成要件要素の一つとして同等に扱われるべきだ」という構成要件概念を錦の御旗にしているだけであると批判した上で、刑法の目的は自国内の法益を保護することにあるので、自国内で法益侵害が発生した場合に限り刑法の適用が正当化されると主張する(33)。この見解によれば、国内で結果が発生した場合に限り、正犯者が外国にいるか否かを問わず、あるいは共犯行為が外国で行われたか否かにかかわらず、国内犯として処罰されることになる。