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そこで、レンツは、国境を越える射撃というよくあげられる事例には遍在説が妥当しても、インターネットにおける犯罪行為については結果が世界中に同時に発生するような場合には遍在説の適用を制限すべきだと主張しているが(23)、その理論的根拠は必ずしも明らかではない。

これに対し、オェーラーは、インターネットに限らず離隔行為の場合、国外で行為する者は、国内で結果が発生することを認識していた場合に限りドイツ刑法を適用するとして主観的要件による制限を主張している(24)。これにより偶然の結果発生地が犯罪地から除外されることになるが、刑法の適用範囲が行為者の主観によって決定づけられるというのは理論として妥当でないようにも思われる(25)

一方、ヒルゲンドルフは、例えば、インターネットにおける表現がドイツ語でなされた場合のように自国の領土と「特別の連結点」を示す行為にのみ自国の刑法が適用できると主張する(26)。しかし、「特別の連結点」の内容は不明確であり、そのようなものを要求し得る根拠は明らかでないと批判されている(27)。また、そもそも自国領土の特別の連結点がなくても自国の国内での法益侵害の危険性が認められ、したがって自国の刑法が適用されるべき場合も考え得るのではないかとの指摘もある(28)。このように遍在説にはいくつかの問題点があり、その適用を制限しようという動きがあるが、そのいずれの試みも理論的根拠が明らかでないように思われる。

これに対し、山口教授は、遍在説を適用することによって生ずる問題点は、遍在説自体の適用制限という形ではなく、むしろ、遍在説の適用の前提をなす当該構成要件の適用範囲の問題として解決されなければならないと主張される(29)。例えば、行政取締罰則は日本国内の事項を規律するために制定された行政法規の実効性を担保するものであるから、その適用範囲は日本国内に限定されるし、刑法175条の保護法益は日本の健全な性風俗であるから、国外でのわいせつ物販売行為を日本国内から教唆・幇助する行為の可罰性は否定される。このように、当該構成要件の適用範囲が立法目的上国内に限定される場合は、国外で行われた行為は構成要件該当性が否定され、当該構成要件の保護法益が国内の法益に限定されている場合は、外国法益の侵害を目指す行為の構成要件該当性が否定されると説明される。

 

 

 

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