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3. 遍在説に対する批判と結果説の展開

 

(1) 遍在説の問題性

我が国の判例(18)・通説(19)は、遍在説を採用し、ドイツ刑法9条の内容をほぼそのまま解釈基準として採用している。遍在説の論拠としては、第一に、犯罪行為は行為と結果の両方から成り立っているのであり、両者を区別することに合理的な根拠がないこと、特に、その一部のみでは国内犯として処罰できないとすると、行為と結果を含めた犯罪全部が国内で行われた場合しか処罰できなくなって不合理であること、第二に、国内犯の規定は、なるべく広めに概念規定しておいた方が多様な犯罪形態に対応することが可能であること、などの点に求められている(20)

遍在説については、例えば、未遂犯の犯罪地としてドイツ刑法9条1項が行為地のほかに「行為者の表象によれば結果が発生するはずであった場所」をも含めることを明示している点について、行為者の主観を根拠にして遍在説を拡大するものであるという批判があるし(21)、ドイツ刑法9条2項2文のように理解された遍在説を我が国の刑法解釈の場面で形式的に適用しようとすると、例えば、アメリカに出掛ける友人に「アメリカでは自動車は道路の右側部分を通行しなくてはいけない」と親切にアドバイスし、その友人がアドバイス通りアメリカで道路の右側部分を通行したような場合に、右側通行自体は犯罪にならないのにそれを親切に助言した者は我が国の道路交通法違反の罪の教唆犯として処罰するという滑稽な結論になりかねないことが指摘されている(22)

また、最近では、遍在説の規定は、インターネットによるボーダレス化により全世界の行為にドイツ刑法が適用されてしまうことになり、しかも我が国とは異なり起訴法定主義が妥当するドイツでは検察に対して過重な負担になりうると問題視されるようになってきている。

 

 

 

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