原則として日本国民は非武装の民であり、拳銃とはいえ武器を所持乃至携帯しているのは警察官だけであるという前提で、さらに通常の市民生活が行われている陸上を想定して制定されているのではないかと思われる警職法第7条の規定であってみれば、それが、国内問題として終結するだけでは済まない、外国船、国籍不明船、場合によっては不審船といわれる船舶を対象とする可能性のある海上において、たとえ準用ということで、必要な若干の修正を加えて解釈したとしても、そもそも状況の設定からして、全く異なる原理が支配する海上への適用には限界があるものと解される。
その理由としては、1]海と陸とでは、場が本質的(物理的)に異なること。海上の単位は船舶であることが通例であり、当該船舶全体の問題として取り扱われ、船内の個々の乗客なり乗組員なりの事情に関わりなく事態が進行する可能性があること。揺れる、沈む、ぶつかるという可能性に加えて、両船間の相対距離は大きく、意思表示としての武器の使用に関して、拳銃等の小型武器では、そもそも射撃したことが分からなかったり、照準の問題でかえって人の殺傷の危険が大きいこと。2]警察官は小型武器を所持し、場合によってはライフルであったり、公務執行中に傍にあった日本刀であったりするものの、その使用する武器は、銃程度が最大のものと考えられるところ、海上では、携帯できる拳銃は勿論のこと、巡視船の装備としての武器、つまりは40ミリや20ミリの機関砲や機関銃あるいは自動小銃であったりするために、武器の操作、運用が根本的に異なるであろうこと。3]海上では、国際的に、軍艦や警察用公船の意思表示の手段として、砲が利用されてきたという伝統があり、国内法としての警職法とでは、発想を異にする部分があると思われること。4]強行接舷の事態を想定すれば容易に理解できるように、強行接舷の為の操船に伴う衝突・破壊、双方の乗員の生命や怪我に対する危険を考慮すれば、海上では、停船を要求する意思表示の方法として、銃・砲を使用した方が、双方にとってかえって安全であるし、実際的であり合理的であること。5]海上(海洋)秩序の維持は、海上にある船舶の同一性、つまりは船籍(旗国)や積荷の性質、出発港や目的港等を確認することから始めなければならないという性質をもつ(海上保安庁法第17条参照)ものであるから、行政目的達成のための手段として、武器の使用の必要性が存するものと考えられるが、警職法はそのような事態を想定しているとはいえず、それを(準用)解釈で補うことができるか否かは疑問がある。