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6 なお、何をもって「不審船」と認定したかという理由については、野呂田防衛庁長官は「漁船の名称が表示されておりましたが、国旗を掲げず、漁具も積んでおらず、非常に不審なアンテナ等が装備されていたこと等から判断して、不審船舶」と考えたと答弁している。「第百四十五回国会参議院外交・防衛委員会会議録第八号」1頁。本文で紹介した船名詐称の疑いを根拠とする楠木海上保安庁長官の答弁とは異なっている。同、2頁。不審船の認定は、かかる不審船に対する即応体制の確立にも絡む問題でもあり、今後とも関係当局間の綿密な協力による迅速な認定が望まれる。

7 漁業法第74条3項は、「漁業監督官又は漁業監督吏員は、必要があると認めるときは、漁場、船舶、事業場、事務所、倉庫等に臨んでその状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に対し質問することができる」と規定する。同法は日本船舶のみでなく、外国船舶をもその適用対象としている。例えば、外国人漁業の規制に関する法律は立入検査に関する規定を欠くので、同法の遵守の確認等のための立入検査は漁業法の本規定に基づいて行われている。そこで、日本の船名を表示している限り日本船舶と想定しつつも、後に外国船舶であることが判明した場合でも、同法に基づく立入検査は可能である。その点が、その適用対象を日本船舶とする漁船法第28条1項に基づく、船名詐称を理由とした立入検査の場合との相違である。根拠法令として、漁業法を持ち出すのはその意味では適切である。先の「政府の不審船対応策」が、不審船への対応に係る法的整理として、「我が国の領海及び内水並びに排他的経済水域にある不審な漁船には、漁業法の立入検査及び立入検査忌避罪を適用」するとの判断に到ったのも、こうした考慮からであろう。「海上保安新聞」平成11年6月10日(2)面。

8 漁業法第141条は、「次の各号の一に該当する者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」とし、その2号で「第74条第3項の規定による漁業監督官又は漁業監督吏員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対し答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」と規定する。しかし、村上教授の指摘にあるように、こうした「形式的かつ軽微な違反を根拠に追跡し、捕捉」した後、「事件の送致・処罰という手続が進行しても、不審船舶の本来の活動が十分に解明されないおそれが残ることになる」わけで、その点に既存の国内法令での対応の限界がみえる。村上、前掲論文(「領海警備」)、65-66頁。

 

 

 

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