しかし、こうした合理的判断に基づく停船や立入検査の要請に対しそれを無視したり抵抗する結果、武器の使用がやむを得なくなったときには、第20条で「海上保安官及び海上保安官補の武器の使用については、警察官職務執行法第7条を準用する」と規定し、武器の使用権限を付与している。その結果、海上保安官の武器の使用にあたっては、同執行法第7条の「警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる」との規定が要求する警察比例の原則が及ぶことになる。しかし、第20条は「準用」するとなっており、「準用」の中身を特定することが必要になってくる。海上における実力行使は「海上」という特殊な環境条件の下で、「船舶」という特殊な機能をもつ実体に対して行われるものであり、実力行使のあり方は、おのずから「陸上」のそれとは異なってくると思われるからである。とりわけ武器の使用については、あくまで停船を目的とするものであり、直接乗員に危害を加えたり、沈没に至ることをあらかじめ目的とするような致命的危害を加えない方法が要求される(43)。この点で、国際法上のいくつかの事例が参考になると思われるので、次にこうした事例を検討してみたい。その前に、今回の不審船に対して行われた継続追跡について議論を整理しておきたい。
5 不審船に対する対応―国際法の立場から
(1) 継続追跡のあり方
継続追跡は、公海上の船舶に対する旗国の管轄権の排他性に対する例外の一つである。沿岸国の権限ある当局は、自らの管轄権内にある外国船舶が当該沿岸国の国内法令に違反し、その管轄水域から逃走する場合、一定の条件の下で当該船舶を追跡することができる。但し、公海上への追跡は、それが合法であるためには継続されねばならず、いったん中断されると再開できない(44)。前述したように、「追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する」(同条3項)が、外国の排他的経済水域であっても引き続き行うことが可能である(45)。