第17条は、「海上保安官は、その職務を行うため必要があるときは、船長又は船長に代わって船舶を指揮する者に対し、法令により船舶に備え置くべき書類の提出を命じ、船舶の同一性、船籍港、船長の氏名、直前の出発港又は出発地、目的港又は目的地、積荷の性質又は積荷の有無その他船舶、積荷及び航海に関し重要と認める事項を確かめるため船舶の進行を停止させて立入検査をし、又は乗組員及び旅客に対しその職務を行うために必要な質問をすることができる」と規定している。従って、不審な船舶が認められたとき、海上保安官は、本条に基づき、法令の励行状況を査察し、有害か無害かを船舶の国籍、出発地、仕向地、積荷その他航海に必要な事項の確認を通じて把握すべく、平成8(1996)年の庁法の改正によって明記された停船措置を伴う立入検査によって行うことができるのである。すなわち、不審船舶に対して停船命令及び書類提出命令、立入検査及び質問を行う権限を有するのである。
さらに、第18条で、「海上保安官は、海上における犯罪が正に行われようとするのを認めた場合又は…危険な事態がある場合であって、人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害が及ぶおそれがあり、かつ、急を要するときは、…次に掲げる措置を講ずることができる」として、「一 船舶の進行を開始させ、停止させ、又はその出発を差し止めること。二 航路を変更させ、又は船舶を指定する場所に移動させること等」(1項)とし、2項で「海上保安官は、船舶の外観、航海の態様、乗組員、旅客その他船内にある者の異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、海上における犯罪が行われることが明らかであると認められる場合その他海上における公共の秩序が著しく乱されるおそれがあると認められる場合であって、他に適当な手段がないと認められるときは、前項第1号又は第2号に掲げる措置を講ずることができる」と規定し、海上保安官に対していわゆる強制処分権限を付与している。なお、本条に定める要件の判断は、「社会通念上、客観的に合理的判断でなければならず、海上保安官の主観的判断であってはならない」のはもちろんだが、「一般人の判断になじまない海上の事情や状況を考えると、海上保安官が不審事由があると認めたその判断が客観的・合理的であればよく、海上保安官の情報や経験に基づく判断を否定すべきではない(42)」とされる。