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4 無害でない通航を防止するための海上保安庁法の体制

 

海上保安庁法(以下、庁法)に基づいて行われる海上保安業務は、海上における人命財産の保護及び海上における法秩序一般の維持を目的としてなされる執行業務をその本質としている(38)。そのため、第1条は、その設置目的を、「海上において、人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、捜査し、及び鎮圧する」こととし、第2条でその任務として、「法令の海上における励行、海難救助、海洋の汚染の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務」といった極めて広範な所掌事務を定めている。さらに、第5条13号で、「沿岸水域における巡視警戒に関すること」も保安庁の所掌事務と規定している。そして、これらの執行業務を遂行するために、港長及び海上保安官制度を設け、これらに諸種の警察権限を付与している(第15条、16条、17条、18条、19条、20条)(39)。とりわけ、今回の不審船の事案に関連する規定は第15条、第17条及び第18条、さらに今回問題となった武器の使用根拠条文たる第20条である。

これら庁法のうちで、海上における警察活動を構成するのは、「法令の海上における励行」の他、「海上における犯罪の予防と鎮圧」及び「海上における犯人の捜査及び逮捕」である。後の2つの所掌事項、つまり犯罪の捜査、犯人の逮捕などの司法警察職員としての職務が刑事訴訟法によって規律されるのに対して、「法令の海上における励行」は司法警察職員としてなされる職務(第31条)には含まれず、行政警察上の取り締りとして性格づけられ、その際、海上保安官は「各々の法令の施行に関する事務を所管する行政官庁の当該官吏とみなされ」(第15条)、その権限については当該行政官庁が制定する規則の適用を受けることになる(40)。ところで、「法令の海上における励行」(第2条1項及び5条1号)にいう「法令の励行」という概念は、米国沿岸警備隊の Law Enforcement をわが国に導入したものとされ、その意味で「法令の励行」に言う「法令」に限定はなく、海上において適用されるすべての国内法令を含むと解される(41)。その意味で、かかる権限行使の根拠法令を他の個別法令(例えば、漁業法や関税法)に求める場合でも、庁法に言う「法令の励行」として、法令の遵守を確保するための執行権限を行使することは可能である。この「法令の励行」のために、庁法上、海上保安官に与えられた具体的な執行権限が、第17条、第18条及び第20条である。

 

 

 

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