無害でない通航を防止するための必要な措置
―不審船への対応を考える―
関西大学教授 坂元茂樹
1 はじめに
本年3月23日に発生した不審船の事例は、これまでの類似の事例(1)とは異なり、わが国の領海警備(2)のあり方に対して国民的関心を惹起するとともに、本主題に関する関係国内法令の整備の必要性を認識させる結果となった。四方を海に囲まれたわが国にとって、領海警備は「国境警備」の性格をも併せもつわけで、今後ともいっそうの関心が払われて当然の主題と思われる(3)。他方、領海では、海上国際交通の便宜を図るために、すべての国の船舶、すなわち、外国船舶に無害通航権が認められており(国連海洋法条約第17条)、沿岸国はかかる無害通航権を妨害しない義務を負っている(同第24条)。その結果、沿岸国は「外国船舶の領海内への立ち入り及び通航を完全に自国のコントロールの下におくことができない(4)」という固有の制約を抱えることになる。他方、無害でない通航を行っている外国船舶に対して、沿岸国として規制を及ぼしうることは沿岸国の保護権として国際法上許容されている(同第25条)。従って、こうした無害でない通航を行っている外国船舶に対して、国際法上具体的にわが国としてどのような対応が可能か、また国内法上どのような対応が予定されているかということが問題となる(5)。
具体的検討に入る前に、先の能登半島沖事件の概要を要約しておきたい。平成11年3月23日、能登半島沖の日本領海内において「第二大和丸」、さらに佐渡島西方の領海内において「第一大西丸」という船名を付けた不審な漁船2隻(当時、前者の船名の漁船は兵庫県浜坂沖で操業中であり、後者はすでに漁船原簿から抹消された船舶であり、船名詐称の疑いがあった)が海上自衛隊の哨戒機P3Cによって発見され、海上保安庁に通報された(6)。