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保安庁は、同庁の航空機、巡視船艇により漁業法第74条3項(7)にもとづく立入検査のために停船命令を実施したが、これを忌避し逃走したので、同法第141条(8)の立入検査忌避罪により、海上保安庁の巡視艇「はまゆき」、「なおづき」、巡視船「ちくぜん」、「さど」などが公海上まで継続追跡を行い、小銃、13mm及び20mm機銃による威嚇射撃を実施した(9)。にもかかわらず、これらの不審船舶が速度を上げ逃走したため、追跡が困難となった。そこで、24日午前0時30分、運輸大臣は防衛庁長官に対し海上警備行動の要請を行い、これを受けた同長官は内閣総理大臣に対し海上警備行動の承認を要請した。同要請に基づき、内閣総理大臣は、午前0時45分、持回り閣議を経て、昭和29年の自衛隊発足以来、初めての海上警備行動に係る承認を与えたのである。同承認を得て、防衛庁長官は、午前0時50分、自衛隊法第82条(10)に基づき海上警備行動を発令し、海上の安全のために当該不審船舶に対し必要な措置をとるよう海上自衛隊自衛艦隊司令官に命令した。この海上警備行動の発令により出動した護衛艦「はるな」「みょうこう」は無線及び発光信号による停船命令を実施し、警告射撃を行うとともに、P3Cが警告として爆弾を投下するなどして強制停船を実施したが、当該不審船舶2隻がこれを無視し、いずれもわが国の防空識別圏の外に逃走したため、遂に追跡を断念した。もちろん、わが国が当事国である国連海洋法条約は、「追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する」(第111条3項)と規定し、防空識別圏の通過をもって継続追跡権の終止要件とはしていないが、「相手国を刺激し、事態の拡大を招くおそれがある」(野呂田防衛庁長官答弁)と判断して、こうした措置をとったと説明されている(11)

当該事件後の平成11年6月4日、政府は関係閣僚会議を開き、「不審船対応策」をまとめた。その中で、不審船への対応は「警察機関たる海上保安庁がまず第一に対処するとし、同庁で対処することが不可能若しくは著しく困難と認められる場合に自衛隊が海上警備行動により対処するという現行法の枠組みを維持する」ことをその基本方針として確認した。さらに、「我が国の領海及び内水並びに排他的経済水域にある不審な漁船には、漁業法の立入検査(第74条)及び立入検査忌避罪(第141条−罰則は6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)を適用」、また「我が国の領海及び内水にある外国貨物を積んでいると思われる船舶には、関税法の立入検査及び立入検査忌避罪を適用」し、その他、「我が国の領域において、何らかの法令違反を行ったことが明らかな船舶には、当該法令違反の罪を適用」することとなった。

 

 

 

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