(ウ) 国連海洋法条約19条1項と2項の関係については、フィジー提案の提案理由やこれと同じ基本的立場にたったいくつかの提案にみるように、19条2項は、19条1項にいう、沿岸国の平和・秩序・安全を害するとみなされる場合の、客観的基準を規定している。領海条約14条4項が、客観的基準化の試みをもたず、有害性の判断が沿岸国の主観に左右される危惧を有していたことに対して、国連海洋法条約ではこのような危惧が現実化することを防ぐ目的において、19条2項が規定されたのである。こうした経緯からすれば、19条1項と19条2項とは、無害性について、同様の要因によってこれを定義する趣旨であり、19条2項が、船舶の活動という行為態様に着眼して、これらの活動のいずれかに「従事している」ことにおいて有害性を規定しているのであれば、19条1項も行為態様を要因とする無害性についての一般的規定であると解される。
(エ) 19条2項の諸活動の列挙が、限定列挙であるのか、それとも例示列挙にとどまりそれ以外の活動が有害と認定されることを認める趣旨であるかについては、限定列挙であることを明白に示す規定ぶりは採用されなかった。ただし、「……しない限り」有害とはみなされないという規定ぶりをやめて、「……をする場合には」有害とみなすという規定ぶりを提案をしたフィジーが、例示列挙であることを明らかにするという理由に基づいていたわけではないことは、上記のとおりである。もっとも、「以下の活動に従事するときにだけ、」有害とみなされる、という提案が退けられている事実は、19条2項が限定ではなく例示列挙であるという解釈に支持を与えるかもしれない。また、19条2項の規定ぶりだけに注目すれば、諸活動の列挙が例示にとどまりそれに限定されるわけではないという解釈も成立はする。
これらの点についての国家実践としては、1989年の米国とソ連(当時)の「無害通航を規律する国際法諸規則の統一解釈」に関する合意が注目される。*27主要な海軍国であり同時にもっとも長く広大な沿岸をもつ二国が、この合意において、国連海洋法条約19条は、その2項において「包括的なリスト」を規定しているとして、限定列挙であるという解釈を明らかにしている。