さらに、このいずれかの活動に従事していない船舶の通航は、無害通航であるともいう。*28後者は、19条2項に限定するのではなく、19条全体についての見解であると解されることから、米ソ二国が、19条1項が19条2項とは異なり行為態様以外の要因に注目して、有害性を認定することを許容していると解する趣旨ではないといえる。
(オ) 19条2項を例示列挙であると解する説は、19条2項ではなく19条1項を根拠として、19条2項が行為態様を判断基準としているのに対して、これとは異なる判断基準により有害性を認定することを主張する。フランスのデクレに関する学説が、「目的」を強調して、有害性を認定するのも、そのような19条1項の解釈論と結びつけてはいないものの、19条2項の行為態様基準以外の基準を認める立場の一例である。
(ウ)でみたように、19条の起草過程からは、19条2項は19条1項の有害性の判断のために客観的な基準化を図った規定であるという趣旨を確認できるのであり、それからすれば、19条1項を19条2項の行為態様基準から異なる独自の基準を規定する条項と解することはしにくい。国家実践としても、米国とソ連の合意は19条について、行為態様基準説を採用している。また、19条1項と19条2項の規定ぶりだけを比較すれば、19条2項は船舶の通航は、「……に従事する場合には」有害とみなされると規定するが、19条1項は、「通航は、……しない限り」無害とされるとある。19条1項の規定ぶりだけからすれば、何らかの活動に従事していることをもって有害性を認定するという規定ではなく、通航そのもの、つまり、フランスの学説が強調するように、船舶の入域や存在それ自体が有害であると認定することを認めているかのようによめる。しかし、19条の起草過程で、たとえばイギリスが自らの提案の理由説明において、「無害通航に関するこの提案は、『無害性(innocence)』がその表題であり、諸活動の列挙は、まさに無害性の明確な定義を与えるとともに、通航を有害なものにする活動を限定しているのである」と述べている。*29たしかに、領海条約14条4項は、有害性の認定に沿岸国の裁量を大幅に認めていた。けれども、国連海洋法条約19条は、これを改善するために規定されたのであり、19条2項は19条1項と独立して設けられた条項ではない。