もっとも、国連海洋法条約の(a)から(k)の活動を、「通航に関係のない」活動というデクレ3条第二文の例示として位置づけたことは、国連海洋法条約の起草過程にあった、国連海洋法条約19条2項の(l)のotherを、similarに変更するという提案趣旨に近いものがあるということもできなくはない。
結果的には、国連海洋法条約19条2項の(l)に対する批判や疑義が繰り返されたにもかかわらず、19条2項の(l)は残った。国連海洋法条約の成立過程の最終段階で、ギリシャが19条2項の(l)に対する批判を繰り返し、otherをsimilarに変更すべきであると提案した。これについは、ペルー、イギリス、デンマーク、ユーゴスラビア、ベルギーが賛成の意を表明した(後に、西ドイツも同様の提案を行った)。他方で、ブラジル、エクアドル、マレーシアが反対の意を表明した。このように見解がわかれたために、ギリシャ提案は採択されなかったのである。*19
ただし、少なくともここでギリシャ提案に反対した国々は、その理由を、otherをsmilarに変更するのは、「限定的すぎる」(マレーシア)とか、「無害通航の概念を損なうものである」(ブラジル)としている。*20前者については、ギリシャ提案よりも、「通航に関係のない」行為態様を広くとらえようという趣旨であろうが、これは、19条2項の(l)が、行為態様を基準としているという前提を変更する主張ではない。後者については、「通航に関係のない」行為態様が、一般的に無害通航ではないという基本的立場を示しているのであろうが、それが、国連海洋法条約18条の通航要件と19条2項(l)との関係をいかに解しているのかは明らかではない。いずれせよ、ブラジルの主張も、19条2項の(l)が、あるいは、より一般的に「通航に関係のない」活動でも、行為態様に着目していることを変更して、船舶の「目的」や性質を判断基準として、船舶の存在や入域それ自体を有害とみなす、という解釈を支持する証拠とすることはできない。