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そして、沿岸国にこのような「目的」要因により有害性の認定を認めれば、その判断が沿岸国の主観や恣意に左右される危惧は深刻なものとなる。

しかも、フランスのデクレに関する上記の学説は、デクレ3条第二文において、「目的」要因の強調を主張する。そこで、デクレ3条第二文によれば、例示される(限定列挙ではない)活動に従事する船舶の通航は有害と推定されるが、「目的」による推定を認めれば、列挙されるいずれかの活動を行う目的をもつだけで、外国船舶が有害性を認定されることもあり得る。「目的」の認定に、沿岸国の主観が入り込むおそれがあるのに加えて、目的があるというだけで、有害性の推定まで働くと解することにはやはり疑問が残る。もっとも、国連海洋法条約19条1項を写した、デクレ3条の第一文において目的という要因を認めるのであれば、この場合には、有害性の推定は働かない。

 

(エ) そもそも、「通航に関係のない」活動が、一般的に平和・秩序・安全を害するといえるのかという疑問がある。これは、まさに国連海洋法条約19条2項の起草過程で強く主張された疑義である。

国連海洋法条約19条2項の列挙事項については、繰り返し、19条2項の(l)の存在が、「open- endedness を招来する」という理由で、その削除が提案されており、削除されないのであれば、せめてotherではなくて、similarに代えて、19条2項の(l)の意味を限定するべきであるという提案が行われた。*17その提案の趣旨は、「通航に直接の関係を有しないその他の活動」が、すべて、「沿岸国の平和・秩序・安全」を害する活動であると、解釈されるおそれがあり、それは、起草意図とは異なるから削除すべきである、という理由であった。*18

こうした経緯に鑑みると、まさにこれらの提案が排除しようとした解釈を、国連海洋法条約19条2項よりも一層明確にして、フランスのデクレはこれを立法したといえる。なぜなら、デクレ3条第二文は、「通航に関係のない」活動は、平和・安全・秩序を害するものとみなされると一般的に規定し、しかも、それに続く11の列挙が、「とくに」という文言に導かれており、例示列挙にとどまることを明らかにしているからである。

 

 

 

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