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(2) デクレ3条に関するフランスの学説の検討

(ア) はじめに、フランスのデクレでは、「通航に関係のない」行為態様をとる目的の船舶については、デクレ2条の通航要件ではなく、デクレ3条第二文により、無害通航の権利を否定するという点をとりあげる。なお、船舶の「目的」を強調するという点については、後述する。

このフランスの学説による解釈が、国連海洋法条約とは異なった意味をもつか、少なくとも、国連海洋法条約の一つの解釈として特徴的であるか、という観点からすると、必ずしもそうとはいえない。国連海洋法条約でも、18条で通航要件を規定しており、19条2項の(l)で「通航に関係のない行為態様」を規定しているので、そのいずれを根拠として外国船舶の無害通航権を否定するかについては、選択の余地がありうる。ただし、いずれを選択するかによっては、立証責任の内容や軽重及び配分に相違がある。そこで、フランスのデクレも2条で国連海洋法条約18条を写した通航要件規定を有しているのであるから、デクレ2条か3条かの選択はありうる。フランスの国内裁判実践は、3条の有害性の認定の方法を選択したということになる。

もっとも、上の学説が挙げるように、フランスの国内実践は、通航要件ではなく、有害性の認定を根拠として無害通航権を否定したという、ひとつの国家実践の意義をもつとはいえる。ただし、そうであるからといって、フランスのデクレ2条の通航要件に関する国内実践の集積やこれらの検討を待たなければ、通航に関係のない行為を行う目的の船舶については、デクレ3条第二文により有害性の問題となり、通航要件が意義をもたないという結論を直ちに導くことはできない。また、上記のフランスの学説も、そこに挙げる国内実践が、通航要件ではなく、「通航に関係のない行為」ということで、有害性の認定を行うことを特に強調して、 その点だけを評価しているわけでもない。なぜなら、当該学説は、フランスの国内実践は、国連海洋法条約19条2項の(d)(沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為)の解釈としても成立するとしており、「通航に関係のない」行為ではなく、19条2項の(d)にいう行為に関する実践としても評価しているようであるからである。この解釈自体は疑問であるが、これについても後述する。

 

 

 

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