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いずれにしても、わが国では、フランスで言う海上行政警察作用に相当するものをトータルに捉える法的概念が欠如している。わが国では、海上交通警察、漁業管理等々についての個別法令は全体として緻密に体系化されているし、様々な条約についてこれらを国内法で受けるという点でも非常に整理されている。国際法との関係での国内法に課題がある場合も、その問題の所在については、関係者により熟知されていることが多い。反面で、国内行政作用法の中で、海上行政警察(警察という用語よりも海洋管理作用と言い換えた方が良いかも知れない)という枠組みが、いぜんとして欠けている。国際法(海洋法)の展開に対応して国内法上必要な手当を施すということはこれまでも粛々と行われてきたが、国際法を国内行政法により積極的に取り込むとか、国際海洋法秩序の中で日本の海洋政策の基本的な方向性を明確に打ち出して行くといったことが、今後の国内行政法的課題であるとするならば、そのための問題構築の場、すなわち、国際法たる海洋法と国内の海上警察法のすり合わせを本格的に行えるような理論的な土俵が必要であろう。このような問題意識を明確にした上で、海上保安に関する法現象について理論的検討を進めてゆくことの必要性は、明らかである。

 

〔注〕

(1) 村上暦造「海上における警察活動」成田頼明・西谷剛編『海と川をめぐる法律問題』(1996年)63頁以下。

(2) 行政警察規則(明治8年太政官達29号)一条には、「行政警察ノ趣意タル人民ノ凶害ヲ予防シ安寧ヲ保全スルニアリ」と規定されていて、この時期のわが国において、フランス的な行政警察の概念が受け入れられたことを示している。

(3) フランスの海上執行機関に関する情報は、フランス海軍のウェブサイト(http://www.defence.gouv.fr/marine)によって知ることができる。本報告の記述も、右のサイトに依拠している。

(4) Cf. Jean-Marie Auby et Pierre Bon, Droit administratif des biens, 1993, p. 30-36.

 

 

 

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