しかし、海域については、管理に係る実定法の体系が入り組んでおり、一般論として公物管理と公物警察を区別することの解釈論上の実益は少ないものと思われる。これと並んで、公物法に基づき、公物管理権者が警察権限を発動できるのか、発動できるとしてその警察作用の限界はどこにあるのか、一般的警察作用と公物管理権に基づく警察作用との相互関係はどうなるのか、といった問題が議論される場合がある(20)。海洋についても、公物法(海岸法・港湾法・漁港法等)による管理がなされる場合には、公物管理権に基づく警察作用が問題となる。これと関連して、新しい海岸法では、従来の海岸保全区域における行為制限の規定(八条)に加えて、海岸管理者が一定の行為を禁止する根拠規定(八条の二)が設けられ、海岸という公物が本来有する機能を維持するために海岸管理者が行う警察作用が拡充された。さらに、法定外公共用物たる一般海域についても、地方公共団体が、条例を根拠として、工作物の設置や砂利採取等の行為の許可制といった形で警察作用を行う事例があるとされる(21)。沿岸域の管理法制を構想する場合に、地方公共団体等による包括的管理権限を想定するならば、右権限に基づく警察作用の範囲は重要なポイントとなるであろう。しかし、この点についても、一般海域を念頭に置くならば、海域全体の管理権限の根拠が明確でない以上、公物法に由来する警察作用を論じることには、余り実益がないと思われるのであり、一般的な警察作用の海域への適用という形で整理すれば十分であろう。
海上警察の中でも、海上交通に関する警察は、わが国でもふるくから行政法学の体系に中に位置づけられてきた。わが国の伝統的な行政法各論においては、航海警察、水路警察といった行政作用が、交通警察の一部として警察法の中に位置づけられてきた(22)。現在のわが国における海上警察活動においても、海上交通に規制に関する諸法令は、具体的な作用法として大きな比重を占めている(23)。加えて、漁業に関する規制や資源管理、海洋環境の管理についても、行政機関による法執行活動たる措置を充実させる必要性は高い。これらに関して海上「行政警察」作用の領域を設定することについては、わが国の行政法理論上いま少し立ち入った検討を必要とするところであるが、海上犯罪の取締まりを中心とする司法警察作用とは別に、海洋における法執行活動を全体としてとらえるための議論の枠組みが必要と思われる。