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この規定により、海上保安官は、海洋管理に係る様々な行政作用法について、それらの執行活動を行う一般的・包括的な権能が認められていることになる。村上暦造教授は、このような海上保安庁法の仕組みについて、同法がアメリカの沿岸警備隊法をモデルとして立法されたため、アメリカの沿岸警備隊に関するlaw enforcementの構造を導入したものであることを指摘される。すなわち、海上保安庁法が、海上保安官の海上における実力行使の全般についての任務と権限を規定する構造をとっていることは、個別の行政法令によって個別の強制権限を付与するという日本法のモデル(ドイツ的モデルと言っても良い)とはやや異なる部分があることが指摘されているのである(17)。そこで問題になるのは、海上保安庁法がアメリカ沿岸警備隊法をモデルとしているとしても、わが国の行政法における法執行活動に関する基本構造が、それと必ずしも整合的でないということである。海上保安官による法執行活動(一定の実力行使を伴う法令の実効性確保のための措置)は、行政法学における行為形式論を当てはめれば、いわゆる即時強制と、非権力的事実行為たる行政指導とを中心に構成されることになる(18)。これを海上保安官による「法令の励行」の法的仕組みに当てはめた場合に、励行すべきもとの法令の側に、当該法令の実効性確保ための十分な法執行活動を行うための法的仕組みが定められているとは限らない。そうであるならば、海上保安官に包括的な法執行権能が与えられているとしても、司法警察としての活動の他に、行政警察作用として権力的活動を行うことは現実には困難が多いものと考えられるし、非権力的活動のみを行ったのでは実効性が少ないであろう。結局のところ、海事・漁業・環境保全・鉱物資源等に関する個別の行政作用法において、海洋管理の特質を踏まえた実効性のある法的仕組みを構築することが課題となる。

なお、公物法通則上、公物管理と公物警察の区別が論じられる。公物警察とは、「一般警察権の発動として、公物の安全を保持し、公物の公共使用の秩序を維持するためにする作用」であると定義され、公物管理権と公物警察権とは、作用の目的によって区別されることになる(19)

 

 

 

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