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わが国の実定法において海上警察を規律しているものは、海上保安庁法である(16)。海上保安庁法の規定に基づくならば、海上警察作用とは、「海上において、人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、捜査し、及び鎮圧する」(一条一項)目的でなされる、「法令の海上における励行、海難救助、海洋の汚染の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務」(二条一項)たる行政作用ということになる。すなわち、海上保安庁法一条は、海上保安庁が海上における保安警察及び司法警察を職務とすることを規定し、同法二条は、海上における法執行と犯罪捜査を中心とした具体的任務を列挙しているのである。さらに、海上保安庁法は、右の海上警察に係る具体的な行政作用の法的根拠についても定めを置いている。すなわち、同法一七条一項は、海上保安官の職務権限として、「法令により船舶に備え置くべき書類の提出を命じ、……船舶の進行を停止させて立入検査をし、又は乗務員及び旅客に対しその職務を行うために必要な質問をすること」を規定し、同法一八条一項は、海上保安官が講ずることのできる措置として、「一 船舶の進行を開始させ、停止させ、又はその出発を差し止めること。二 航路を変更させ、又は船舶を指定する場所に移動させること。三 乗務員、旅客その他船内にある者を下船させ、又はその下船を制限し、若しくは禁止すること。四 積荷を陸揚げさせ、又はその陸揚げを制限し、若しくは禁止すること。五 他船又は陸地との交通を制限し、又は禁止すること。六 前各号に掲げる措置のほか、海上における人の生命若しくは身体に対する危険又は財産に対する重大な損害を及ぼすおそれがある行為を制止すること」を列挙している。以上のように、海上保安庁法は、海上警察に関して、行政法理論に言う行政組織法と行政作用法の両方の部分を併せて規定している。また、海上保安庁法の定める海上警察については、司法警察と行政警察の両方を含み、権力的作用のみではなく非権力的活動を根拠づけていることが指摘できる。

加えて、海上保安庁法は、「海上における法令の励行」を目的に掲げていること(二条一項)と対応して、法一五条において、「海上保安官がこの法律の定めるところにより法令の励行に関する事務を行う場合には、その権限については、当該海上保安官は、各々の法令の励行に関する事務を所管する行政官庁の当該官吏とみなされ」ることとされる。

 

 

 

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