本研究事業では目標としている大掛かりな装置などを必要としない簡便な方法論を採用して上記の問題点を解決することを試みた。まず微量成分の濃縮については、試験海水をゆっくりとした流速で主に有機化合物を吸着する性質を有する成分を充填した逆相カートリッジカラムに通すことで、塩類の影響を受けることなしに微量成分を一旦カートリッジカラム内にトラップする。このカラムを軽く洗浄した後、少量の適当な溶媒で溶出することによって高い倍率に濃縮された毒性成分試料を得ることに成功した。次に得られた成分の生物に対する毒性や障害性の検定については、実験動物の代わりとして培養細胞を用いることにした。すでに永久継代系として確立している4種類の培養細胞株を供試材料に微量成分に対する各々の細胞株の感受性の違いも考慮しながら試験した結果、明確に反応を不す細胞株が得られ、しかも動物実験で知られているレベルの10倍〜20倍の高い感度で毒性を検出できた。前述の通り実験動物の場合は、健康的に維持・管理するために飼育施設が必要であり、世話をするための人手や費用がかかる。一方、培養細胞は小さな培養器だけ用意すれば均質な細胞を安定して得ることができた。本研究事業で検討した方法は、目標とした「海水に混合あるいは懸濁する物質を総体的に捉えること、そしてどの化学物質が影響するのか特定をすることは目的とせず、あくまでも海水試料の中に生物に対する影響物質が含まれているかどうかを明らかにできる評価法、できれば簡便で、かつ高感度に定量的な判定・評価を行うことができる方法の確立」に概ね沿うものであったと考えられる。具体的には以下の研究項目を実施した。