濃縮毒性試験法は、そのままの濃度では検出することが困難な微量成分の生物への影響を調べるために、毒性成分を含む試料からその成分だけを濃縮・抽出して、実験動物に投与する形で毒性や生物の対する様々な障害性を評価・判定する方法である。河川水や池沼の水を試料とした場合多くの適用例が知られている有効な方法である。しかし、この方法論を淡水で一般的に行われているやり方のまま海水試料に適用することは、主として以下の2つの理由で困難であったと考えられる。1つは、高濃度の塩類を含む海水では、濃縮しようとして水分を減少させると大量の塩が析出し、微量な毒性成分のみを簡便に濃縮できないことである。もう1つは、安定した評価・判定結果を得るためには、マウスのように確立した実験動物が必要である。淡水を含む試料をそのまま用いる場合は様々な毒性成分に対して感受性を不すことが確認され、また系統が確立している魚が用いられることが多い。また、水生動物に対する殺虫剤の影響を調べる試験では、昆虫と同じ節足動物で実験室で継代管理されているミジンコが被験生物として用いられたこともある。しかし、これらの動物もマウスほどに確立しているとはいえず、まして海洋動物には確立した実験動物がいない。濃縮毒性試験法は海水をそのまま添加するのではなく、濃縮産物を添加して影響を評価する方法なので、必ずしも海産動物を用いる必要はない。しかし、一度海水にまで到達した物質の沿岸生物に対する影響の評価であるから、もし動物を用いるのであれば海産動物が望ましいと思われる。また、どの種類の動物を扱うにせよ、実験に適するように健康的に維持・管理するためには飼育施設が必要で、世話をするための人手や費用もかかる。結論として、被験動物を用いることは困難であると考えられた。また一方で、実験とはいえ、なるべくなら動物を殺さないですむ方法が採用できないかという意見もあり、これも考慮した。