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5.3.2 波浪予報の現状

 

WRSの精度向上には、その推薦航路予測の基本となる波浪予報の精度向上が不可欠である。本項では、わが国の気象庁の波浪予測業務を中心にその現状の概要を述べる。

わが国の波浪予測業務は、海上気象課において実施されている。海上気象課では、数値波浪モデルを開発・運用して波浪の実況解析や予想を行っており、その結果を波浪プロダクトとして利用者へ提供している。

1996年3月の気象庁の気象資料総合処理システム(COSMETS)の更新に合わせ海上気象課では、外洋波浪モデルの計算領域を北西太平洋から全球に拡大した全球波浪モデルの運用を開始するとともに、格子間隔の細分化と予想時間の延長が図られた。また、これまでのマニュアル(手書き)による波浪の解析・予想作業をワークステーション(EWS)上での対話型システムに移行し、波浪図作成の迅速化と客観化が推し進められた。

本項では、まず、わが国の数値波浪予報の歴史的変遷とこれに伴う精度の推移について述べる。次に、現在運用されている数値波浪モデルの概要を示すとともに、最近導入された第3世代数値波浪モデルについてその概要を示し、最後に今後の波浪予測の展望について紹介する。

なお、本項をとりまとめるにあたり、羽島(1991)、市成ら(1997)、市成(1998)を参考にした。

 

(1) 波浪予測業務の変遷

気象庁では1973年に最初の数値波浪モデルMRI-Iを気象研究所で開発し、これを基に1977年から北西太平洋の波浪予想を開始した。このモデルは当初外洋域を対象に運用されていたが、1983年3月からは日本近海の波浪状況を詳細に表現するために、日本近海を対象とした近海波浪モデルの運用も開始した。さらに、沿岸域における詳細な波浪表現を可能にするため、近海波浪モデルの結果を基に診断的に計算する沿岸波浪モデルの運用も同時に開始した。この外洋と近海の数値波浪モデルMRI-Iは1986年9月まで使用され、MRI-IIに移行した。MRI-IIは物理過程として風波の発達に重要な働きをする成分波間の非線形エネルギー輸送が考慮されており、波浪のスペクトルレベルでの現実的な予想が可能になった。table 48にわが国の気象庁の波浪予報業務の経過を、Fig.30にわが国の数値予報モデルの歴史的経過を示した。

 

 

 

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