完成した組み換え遺伝子は、そのままでは接着活性を得ることはできないが、マッシュルームやバクテリアから精製されたカテコールオキシダーゼを組み換えタンパク質に作用させることにより、接着活性が得られたとの報告がなされている。得られた接着剤が、天然のタンパク質と同じ形態であるかどうかは不明であるが、接着力のあるタンパク質の組み換え生産に成功したことで、接着タンパク質の大量生産の可能性が示された。
このような水中接着剤は、水中建造物の建造のみならず、外科手術などの湿潤環境にも適用できる可能性がある。
3] 貝殻無機材料
a. 靱帯
二枚貝の靱帯は、二枚の殻を背側で結合している、ゴム塊のような暗褐色の構造物である。靭帯は外靱帯と内靭帯に分けられる(図3.4.2-3)。外靭帯と内靱帯により、貝殻が開く力が与えられる。外靭帯は炭酸カルシウムを含まないが、内靱帯はアラゴナイト(炭酸カルシウム)を重量比で約40%含有する。内靱帯中では、太さ0.1μm前後の細長い六角柱のアラゴナイト結晶が平行に並んでおり、これらが水分の多いゲル状の有機基質中に埋入されている。貝殻が閉じた場合、アラゴナイト結晶の長軸に対して垂直に圧力がかかるが、このような微細構造は、常に適当な反発力を与えるための最も合理的な構造を示すと考えられている。すなわち、内靱帯は二枚貝特有の弾性複合材料と言える。